とある魔法世界のとある魔法高校にて。
どこかで見たことがあるような、実につまらない、オリジナリティに乏しい、普通の魔法世界での出来事を綴った物語です。誰かのちょっとした暇つぶしくらいになったらいいなと思います。(※作中の都市、学校、人物等はフィクションです)
「金だァ!!金を出せェ!!!」
平日の昼間。明葉銀行に男三人組が襲来していた。
実にテンプレ的な銀行強盗だ。職員はマニュアル通りに対応する。
だが、女性職員が机の下の通報ボタンを押そうとしたとき。
ドン!!と鈍い音が響き、女性職員が倒れる。
「おっと、怪しい動きをするなよ?俺は雷魔法を使うんだ」
銃ではない。三人組のうちの一人が放った雷魔法により麻痺させられたのだ。
「痺れさせてから確実に仕留めた方が合理的、だよな兄貴」
残りの一人が女性に銃を構えた、そのとき。
「そこまでです!!」
何者かがガラスを破ってきたと同時に、男の構えていた銃が風によって巻き上げられた。
「チッ、特命隊……じゃないな。学生か」
男たちは一瞬緊張した面持ちを見せたが、彼女の服装から学生だと判断し、表情を緩める。
「学生は学校に戻ってお勉強でもしときな!!!!!!」
*
二分後。
三人の男は少女の氷の魔法によって拘束され、内二人は雷魔法により気を失い、完全に制圧されていた。
「あ、警察も来ましたね」
ファンファンファンとサイレンの音が遠くから聞こえ、彼女は警察への引き取りの準備を始めた。
三人の男を警察に引き渡し、諸々の手続きを終えた彼女は、ガラス割っちゃってすみません、と職員に謝る。
「いえいえ……助けていただきありがとうございました!」
職員の一人が言い、他の職員も続く。
そして、彼女が銀行を去ろうとしたとき、女性職員――犯人の雷魔法に撃たれた――が、彼女に声を掛けた。
「あの、お姉さん、かっこよかったです……!!お名前は何というんですか?」
彼女は、にっこりとほほ笑んで答える。
「明葉魔法高校2年、金鳴朱真です!」
*
この世界では、誰もが魔法を使える。決して、特別なものではない。
誰もが生まれながらに“魔力”を持ち、適性のある魔法を使うことができるようになる。
魔法は基礎7属性――「火」「水」「自然」「土」「風」「雷」「無色」。
魔法は便利なものだ。紀元前、人類は初めて魔法を手にし、それを活用するようになると、文明は目覚ましい進化を遂げた。
だが、便利なものの運命と言おうか、当然それを悪用する人間もいる。
一般人による公共の場での魔法の使用は法律により制限されているものの、魔法を用いた犯罪は各地で多発している。
それに対抗するために生まれた組織、それが「魔法対策特命隊」。簡単に言えば“公職の魔法使い”である。
国家資格の「特別魔法使用許可証」を持つ特命隊は、警察と連携し、魔法犯罪者の取り締まりを行う。
そして、そんな特命隊を目指すための学科が「魔法科」。魔法科のある高校は各都道府県に一つある。その中でもトップクラスの実績を誇るのが、宮城県立明葉魔法高校。
魔法科に特化した異質な高校であり、教員は全員が特命隊としての経験を持つ。通常は卒業後に取る許可証の取得が三年次のカリキュラムに組み込まれており、卒業後は即戦力として活躍できる。また、許可証の取得は学校の認めた優秀な生徒であれば、二年次でも取得が可能。
とにかく、特命隊になるならこれ以上ない環境の高校である(但し、実力不足で許可証取得試験に合格できない者も一定数いる。そんな生徒は就職や大学進学を目指すこともできる)。
*
「ただいま帰りました~ってあれ、夕弥まだ帰ってなかったんですか?」
明高の生徒会室に金鳴が戻ってくると、そこにはパソコンに向かう一人の少年がいた。
「お帰り、朱真。明日は特命隊とパトロールだろ?担当区域の最近の犯罪情報を調べてたんだ」
そう答えた彼は、星見夕弥。明高2年次No.1の実力の金鳴に続き、No.2の実力を持っている。
「ありがとうございます、毎度助かりますほんと」
「気にするな。こういうのは得意だからな」
また、彼はその戦闘スタイル故に、物事の分析を得意とする、チームのブレーン的存在でもある。
「とりあえず、現時点で分かったことだが――」
そう言いかけたとき、ガラガラピシャン!!と大きな音を立て、生徒会室の扉が開く。
「星見!!もう資料纏ったか?」
「あ、朱真ちゃん帰ってきてたんだ、お疲れ様!」
入ってきたのは、美岡灯斗と音喜多鈴。
「ったく、そのドア古いんだから慎重に開けろって、何回言ったら分かるんだ、美岡。音喜多もよく躾けといてくれよ」
「躾けって……」
ため息をつく星見に、音喜多が苦笑する。
「まぁ、何にせよ皆さん揃いましたね。明日の予定の確認に移りましょう」
*
「まず、明日の俺たちの担当区域――3つ隣の町の『宵宮旧市街地』だ。かつては栄えていた地域だが、ここ最近は周辺地域に人口が流出、商店も減って活気のない街になっている」
星見は、パソコンの画面上に地図を映し出す。
「調べたところ、ここ2、3年で小規模な魔法犯罪が頻発しているようだ。警察の目もあまり行き届いていない、犯罪の温床になっている」
「たしかこの辺って廃ビルとかも結構多かったよな?」
「ああ。比較的入り組んだところも多くて、犯罪者が逃げやすいっていうのもあるみたいだな。っつーことで、明日は手分けしてパトロールをしよう」
「手分け……となると、地上組の夕弥と鈴さん、飛行組の私と美岡くん、って感じですね」
「そうだな。今回は監督の特命隊員もいない。一応周辺の街が担当区域の隊員には声を掛けているが、基本俺たちのみでの任務になる」
星見、金鳴、美岡、音喜多の4人は許可証を既に取得しており、休日は特命隊のパトロールにも参加している。基本的には学生のみでの任務が行われることはないが、確かな実力と実績のある彼らは、今回1区画を彼らのみでパトロールするという任務を与えられていた。
「でも、私たちだけになるならやっぱり基本2人は纏って動いた方がよさそうだね」
「そうですね。それに、夕弥と鈴さん、私と美岡くんは相性補完的な観点からみても結構バランスのとれたチームだと思いますし」
星見は土属性、音喜多は自然属性、美岡は風属性、そして金鳴は風・水・雷の3属性を使用する。
基本的に、1人1属性の適性があるが、金鳴のように複数属性に適合する者もごく稀にいるのだ。
「――じゃあ、ルートは今言った通り。明日は8時に宵宮駅前で集合だ」
「皆さん、今日はしっかり寝てくださいね」
特に星見くんはね、と音喜多が付け足す。
「じゃあ、また明日」
口口にそう言い合い、それぞれ寮へと帰るのだった。
彼らはまだ知らない。これから彼らの身に起こることが、日本を揺るがす歴史的な大事件に繋がるということに。