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タマちゃんとリリ子さん

三毛猫騒動

朝から、わたしの眉間は深く寄っていた。

というのも、リリ子さんが「今日はフリーマーケットに出るの」と言いながら、車の準備を始めていたからだ。


「タマちゃんはお留守番ね」と言われたとき、わたしの誇り高き耳がピクンと跳ねた。


まさか。わたしが、地球の辺境の古びた屋敷で黙って留守番などすると思っているのか?

リリ子さんを守らないと思っているのか?


認めません。同行いたします。

わたしは帝国皇弟の一人息子、ニャンダート・ターマ・シャグラン。

この地球においても、猫という仮初の姿でありながら高貴な務めを果たしつつある存在である。

だから、わたしは抗議の意味で車のボンネットに乗って「ニャオーーー〜ん」と鳴いた。三回ほど鳴いた所で

「もう、タマちゃん。知らない人がたくさんいるのよ?平気?」と言うお小言付きながら

「一緒に行きましょ」と許可を貰った。


そして最悪なことに、あの忌々しい研究者猫たちも、ちゃっかり支度を整えていた。


「観察対象の地球民との交流は貴重な機会ですので」

金眼を光らせて勿体ぶって言いやがって・・・

「市場というのは生態的にも興味深い場です」と、垂れ耳の犬までニャーヌと言って頷いている。

間違えてるぞ!ワーーヌだ。


わたしは前足で顔を覆ってため息をついた。


こうしてリリ子さんの車に、嬉々としてと乗り込むお邪魔研究者。



会場は朝から人でごった返していた。

日差しはやや強いか?しかし風は心地よい。

ブルーシートの上に並べられた着物。食器。リリ子さん手作りの品物。そこにちょこんと座るわたし。

さらに研究者猫たちが、まるで王族の護衛のように品々の周囲を歩いて愛想を振りまく。


それが功を奏したのか、次々と人が立ち止まり、


「まぁ、猫ちゃんたち!」「写真撮ってもいいですか?」

「このお皿も素敵〜、あら、猫が案内してくれてる!」


などと、商品が飛ぶように売れていく。


銀の目の三毛が得意げに、前足でお皿を押し出して見せたとき、事件が起きた。


一人の女性が三毛をひょいと抱き上げ、無遠慮にも後脚をぐいっと開いて覗いた時にこう言った。

「あら・・・この子、三毛なのに・・・オス?」「うわ、本当にオスだわ!」


その声が、会場の空気を裂いた。


「オスの三毛!?」「珍しい!」「見せて見せて!」


何ということだ。

銀の目の三毛猫。帝国の叡智。ニャー・ザイル博士。我が恩師。齢130にして愛妻家・・・研究一筋の・・・

そのお方が、女性に囲まれ、抱きしめられ、あろうことか「股間」を覗かれているのだ。


「やっ、やめたまえ!なんてことを!わたしは——んぎゃあああああ!!」


ミア博士の絶叫が、フリーマーケットの喧騒を余計に煽った。


その後、阿鼻叫喚である。


女性たちが口々に「神の使いだわ!」「写真撮らなきゃ!」と言いながら次々と博士の下腹部を見ている。しっかりと。

他の猫たちは青ざめてその場を逃げ出し、垂れ耳の犬など物陰に隠れて震えていた。

わたしも、恩師の危機に冷静さを欠いて、リリ子さんにしがみついてしまった。

ミア博士は最終的に発狂寸前で、リリ子さんが用意した段ボール箱に逃げ込んだ。


リリ子さんはその段ボール箱を車に積み込んだ。

そして、急いで辺りを片付けた。


わたしは逃げ出した研究者どもを置いて帰ろうかと思ったが、後で心優しいリリ子さんが気に病むといけないので

「にゃーーゴーーー」と鳴いてあいつらを呼び集めた。


そしたら、リリ子さんから

「さすが、タマちゃん。面倒見がいいわね」と褒められた。


「まさか、猫の股間でこんなに・・・早く帰ろうね、タマちゃん。三毛ちゃんは災難だったわね。みんな戻って来た?行きましょ」


翌朝、静かな朝の光の中、わたしたちは博士を慰めていた。

内心は早く帰れと思っていたが、やはり恩師にそれは言えないなぁと悩んでいると、


ピンポーン。


インターホンが鳴った。

玄関先には、見知らぬ男性が・・・リリ子さんとはどんな関係なのか?わたしは瞬時に戦闘体制になった。


「おはようございます。ちょっと、話、いいですか?」

と言いながら、彼は何やらスマホを操作して見せた。


そこには昨日の混乱の現場、\*\*「オス三毛猫が発見される!奇跡の猫に人だかり」\*\*という見出しとともに、

わたしの知る三毛博士が股間を晒して叫ぶ映像が、映っていた。


「うちのカフェにも、三毛のオスはいますかって問い合わせが殺到してまして。あっわたしは猫カフェを営業しております。猫が好きなことでは誰にも負けません」


リリ子さんは黙って次の言葉を待っている。リリ子さん冷たい!素敵だ。


「その・・・良ければ・・・あの三毛ちゃんを」と言いかけたものの、

リリ子さんの冷たい目線に怯んだようで言葉が続かなかった。



ミア博士は、その後三日ほど押し入れから出てこなかった。

しかし、後に、論文を書いた。「人類文明との接触に関する倫理的課題」と題して提出された、それは母星では妙に高評価だったらしい。特に三色の体毛を誇るお方たちに・・・


我が恩師はあの受難で一皮剥けたらしい。


そしてわたしは、今日も帰って来た猫として、リリ子さんの足元で静かに喉を鳴らす。

この星は穏やかで愛おしく、たまに危険だ。


でも、悪くない。


リリ子さんは騒動があったものの、フリーマーケットは気に入ったようで、また参加するつもりのようだ。


我が恩師は留守番するか、一緒に行くか、迷っているようだ。


喉の奥で、わたしはごろりとひとつ、笑った。


誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。

とても助かっております。


いつも読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



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