第92話 最終話「初恋×今恋」
小春と姫乃ちゃん。
今恋と初恋の女の子たちと友達以上・恋人未満の三角関係になったとはいうものの。
もちろんそのことを表立って言いふらしたりはしない。
やっぱりちょっと外聞がよくないからな。
俺たち3人は納得していても、事情を知らない第三者から見れば、特に美少女二人を両手に話している俺は、不誠実なクソ野郎で間違いない。
俺だって自分がもし事情を知らない第三者だったら、きっとそんな風に思うはずだから。
自慢なんて論外も論外だ。
というわけで。
翌日の学校でも、俺と小春と姫乃ちゃんは「今までよりちょっと仲がいいくらい」の関係を維持していた。
「あれユータ、何してるの?」
俺が休み時間に、次の世界史の授業の準備をするべく教科書やノートを机の中から出していると、なぜだか小春が不思議そうな顔をして言った。
「何って次の授業の準備だけど。次、世界史だろ?」
「なに言ってんのさユータ。次、移動教室だよ?」
「え? 移動教室? マジで?」
まさかと思って姫乃ちゃんに視線を向けると、
「視聴覚室でプロジェクターを使って動画を見るそうですよ」
姫乃ちゃんが小さく苦笑をしながら補足説明をしてくれた。
「昨日の授業の時に先生が言ってたでしょー」
「あー……。そういやそうだった、ような……?」
とかなんとか言ったものの、実のところまったく記憶になかった。
「勇太くん、忘れてたんですか?」
「まぁ、うん。面目ない……」
でもなんとなく、記憶にない理由には察しがついていた。
昨日の世界史は6時間目だった。
つまり俺がラブレターのことで頭がいっぱいだった待った中で、当然、先生の話なんてろくに聞いていなかったからだ。
忘れる忘れない以前に、そもそも聞いてすらいなかったのだ。
なんて言ってしまうとからかわれることが間違いない上に、まだクラスメイトたちが教室にいる状態でラブレターうんぬんは話題に出したくはない。
「まったくもー、ユータはほんとアタシたちがいないとダメなんだから。ねー、ひめのん」
ゆえに、小春が勝ち誇ったように言ってくるのを、俺は甘んじて受け入れた。
「そうは言っても人間だれしも、ど忘れすることはありますから」
「もー、ひめのんはほんと、ユータに甘いんだから。ダメだよ、甘やしちゃ。ユータはすぐに調子に乗るんだから。シメるところはシメないとだよ」
「俺は調子になんか乗らないっての。日々つつましやかに生きてるっての」
小春といつもの言い合いをしていると、これまたいつものように、
「ふふっ」
姫乃ちゃんが軽く握った右手を口元に当てながら、クスクスと楽しそう笑った。
いつもと変わらない、いつものやり取り。
だけど好きという気持ちを明確に伝えあったからか、なんだか妙にこそばゆく感じてしまうから不思議だった。
「そんなことより、そろそろ行かないとチャイムに間に合わないぞ? 視聴覚室って部室棟だろ? 急ごうぜ」
言うと、俺は世界史の勉強道具一式を持って席を立った。
「ほんとだ、もうみんな行っちゃたし」
続いて小春も教科書やらノートやらを持って席を立つ。
「私たちが最後なので、戸締りをしないとですね」
そして姫乃ちゃんは席を立ちながら、やるべきことを冷静に伝えてくれる。
俺たちは教室を出て、ドアを閉めると、移動教室での授業が行われる視聴覚室へと向かった。
仲良く並んで廊下を歩く姫乃ちゃんと小春を、やや後ろから眺めながら、俺は初恋と今恋について少しだけ思いをはせる。
いつかは2人のうち、どちらかを選ばないといけない。
だけどまだ今は。
少なくともしばらくの間は。
俺と小春と姫乃ちゃんの日常は、わずかな変化をはらみつつも、今まで通りに流れていくことだろう。
なんてことを考えていたら、2人から少し距離を離されてしまった。
「ユータ~、とろとろしてると遅れるよー! 早歩きー!」
「勇太くん、少し急いだほうがいいかもしれません」
振り返った小春と姫乃ちゃんに催促された俺は、
「悪い悪い」
駆け足で2人のもとへと向かい、今度は3人で足並みを揃えて視聴覚室へと向かったのだった――。
初恋×今恋 高校に入学したら昔、水をぶっかけた初恋の女子が右隣の席に座ってた。朝、起こしに来る幼馴染みは左隣に座ってる。
(完)
12万字を超える長編をお読みいただきありがとうございました(*'▽')!
ラストは悩みに悩んだのですが、どうしても初恋と今恋を選びきれませんでした。
なので現段階ではいったん、初恋と今恋が完全に対等であり、ここから仲良し三角関係としてリスタートという形で区切りを付けたいと思います。
ここまで「初恋×今恋」応援いただき、まことにありがとうございました。
読み終えた記念にどうか☆☆☆☆☆(評価)を入れていただけたら嬉しいです!
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