第90話「だからぁ~? そうやってすぐに2人きりの世界に入らないで欲しいなぁ~? ここにはアタシもいるんですけどぉ~~??」
「いいってことよ。どうせ転校も決まってたしさ。なにより好きな女の子に恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないからさ。愛とか好きとかってのは、そういう向こう見ずなもんだろ?」
それこそ男が廃るってなもんだ。
「勇太くんは本当に優しいですね。すごく優しくて、すごくカッコイイです」
「あはは、そう言ってもらえたら嬉しいよ、姫乃ちゃん」
「今も昔も勇太くんは私にとって白馬の王子様なんですから」
「うん、ありがとう」
「勇太くん……」
「姫乃ちゃん……」
俺と姫乃ちゃんは、ずっと秘めていた互いの想いを伝えあいながら、静かにジッと見つめ合った。
姫乃ちゃんの黒曜石のように真っ黒な瞳は本当に綺麗で、このまま永遠に見ていられそうだ――
「だからぁ~? そうやってすぐに2人きりの世界に入らないで欲しいなぁ~? ここにはアタシもいるんですけどぉ~~??」
ぷくーっとふくれっ面をしながら、最近よく聞くようになった微妙にねっとりした口調とともに、小春が俺と姫乃ちゃんの間ににゅうっと顔を出してきた。
しかしほっぺを膨らませた小春は、ヒマワリの種を口いっぱいにため込んだハムスターのように愛らしいから困る。
「だからそんなんじゃないっての。昔話の延長先だって」
「そうですよ。今のはちょっとした話の流れですから」
「ふーん?」
「な、なんだよ」
「ほ、ほんとですよ?」
「ま、いいけどねー。離れてた期間の埋め合わせはしたいだろうし? それに、今日からはもう3人の世界だしねー♪」
不満そうな顔から一転、小春がにへらーと嬉しそうな笑顔を見せた。
「あ、今の上手く言ったって思っただろ」
「そうだよ? 実際、上手く言ったでしょ?」
「まぁ、うん。否定はしない」
「じゃあ特別に、上手く言った小春ちゃんを褒めさせてあげるね。はい、どーぞ」
小春がずいっと俺に頭を差し出してきた。
「なんでウエメセなんだよ? まぁいいや。上手いこと言って、えらいぞ小春」
「えへへー♪」
俺が小春の頭を優しくなでなでしてあげると、小春はさらに嬉しそうに目を細めた。
なんて、俺と小春がいつものやり取りをしていると、
「じょ、上手に言えました~!」
姫乃ちゃんが急に、らしくないことを言った。
元ネタは人気の某・狩猟系ゲームのセリフだろう。
姫乃ちゃんはゲームをまったくやらないらしいので、本当にらしくなかった。
多分だけど、何かで最近このセリフを知って、今の小春と俺のやり取りを見て、『わ、私もちょっと頑張って、アレを使ってなにか上手いこと言ってみようかな~(>_<)』などと思ったに違いない。
上目づかい&おどおどした様子で俺たちの反応を窺うように見てくる姫乃ちゃんに、
「あ、えっと、上手く言ったね?」
「お、おう。モンハンネタだよな、すぐわかったぞ?」
何とも言えない戸惑いを隠しきれないまま、小春と俺は言葉を返した。




