第89話「うるせっ。好きな子から白馬の王子様とか言われたら、俺じゃなくたって誰でも照れるってーの」
「はい。勇太くんとの関係を語る上で、これは避けては通れない話題ですから。ラブレターを出すときに、小春ちゃんには全部話しました」
「そこまでお互いのことを伝え合ってたんだ」
だってあの時の出来事を話すということは、姫乃ちゃんが教室でお漏らししたことも話したわけだ。
それはとても勇気がいることだったに違いない。
「アタシずっと謎だったんだよね。なんでユータとひめのんはこんなに仲がいいのかなって。なんか深いところで通じ合ってるって言うか? でもこんなことがあったら、そりゃあお互いに忘れられない関係になるよね」
言いながら、うんうんと頷く小春。
「はい。あの時の勇太くんは、まさに物語に出てくるヒロインのピンチに颯爽と現れる白馬の王子様でしたから」
「いやいや、白馬の王子様はさすがに言い過ぎだからね?」
あまりに過剰なお褒めの言葉に、俺は思わず苦笑したんだけど──。
「そんなことないってばー。ひめのんを助けたことで、ユータはめちゃくちゃ怒られたんでしょ? そんな自己犠牲ヘルプされたら、乙女心がキュン死間違いなしだもん。ねー、ひめのん♪」
「はい。勇太くんが怒られることに申し訳ない気持ちでいっぱいだったんですが、でもそれをはるかに凌駕する強烈なキュンがあったのを、今でも鮮明に覚えています。あの時の勇太くんは間違いなく白馬の王子様でしたよ。少なくとも私にとっては」
姫乃ちゃんが当時を懐かしむように、胸にそっと右手を当てた。
「お、おう……そっか。さんきゅ……」
小春と姫乃ちゃんからこれでもかと持ち上げられて、なんとも気恥ずかしい俺だった。
「あ、ユータ照れてるー」
「照れてますね、ふふふっ」
「ユータはそういうの、素直に顔に出ちゃうもんねー」
「はい、全部筒抜けです」
「うるせっ。好きな子から白馬の王子様とか言われたら、俺じゃなくたって誰でも照れるってーの」
「で、そうやって微妙に言葉遣いを荒っぽくして、うやむやにして誤魔化そうとするんだねー♪」
「ねー♪」
小春と姫乃ちゃんが顔を見合わせて楽しそうに笑う。
「……」
図星を指されてぐうの音も出ない俺だった。
「あとさー? 転校してきてしばらく、ユータが妙に大人しかったのもそれが原因だったんだよね?」
「まぁな。あの時はマジで大人という大人にしこたま怒られたからな。さすがに堪えたんだよ。――って、おっと姫乃ちゃん? 謝るのはなしだからな? あれは俺がやりたくてやったんだからさ」
俺の言葉を聞いて申し訳なさそうな顔になった姫乃ちゃんに、俺は先んじて謝罪禁止を言い渡した。
「そうだよひめのん。もうとっくに時効だし? それでもどうしても気持ちを伝えたいなら、やっぱり『ありがとう』かなー」
「はい、そうですよね。勇太くん、改めてあの時はありがとうございました」
姫乃ちゃんが感謝の大きさを表すように、深々と頭を下げた。




