第86話 その答えは――
「えー……」
「正解はユータの愛を確かめるためでした。ラブレターを書いたのが他の女の子と思っていたら、ユータの愛が足りないってことだからねー」
「あー、うん。なるほどな――」
と、小春の説明に俺が素直に納得しかけたところで、
「あの、小春ちゃん? 恥ずかしいから名前は書かないでおこうって言ってませんでした?」
横から姫乃ちゃんがおずおずといった様子で、口を挟んできた。
「ちょっとひめのーん! それは言わない約束でしょ~? ユータに舐められるじゃんかー」
「申し訳ありません。ですが相手を試すような女の子だなんて思われたら、それこそ小春ちゃんの印象が悪くなっちゃうと思ったんです」
「あ、それはたしかに? さすがひめのん。頼りになる~♪」
「ふふっ、ありがとうございます」
「ってわけで、恥ずかしかったから♪」
「私も同じです」
いつの間にか俺を蚊帳の外にして盛り上がる2人に、俺は尋ねずにはいられなかった。
「え、なに? さっきから2人がやけに通じ合ってる感じなんだけど? もしかして、たまたまラブレターが重なったんじゃなくて、2人で事前に話し合って、同時にラブレターを出したのか?」
「うん、そーゆーことー」
「はい、そういうことですね」
小春がにへらーと笑い、姫乃ちゃんがこくんとうなずいた。
「っていうかさ? そんな偶然あるわけないじゃん? 2人そろって同じ日の、同じ時間に、同じ場所なんてさ?」
「ふふっ、もしそうなら、ものすごい確率ですよね。明日はきっと雨になるでしょう」
「まぁその、改めて言われてみると、そりゃそうだよな。どんな確率だって話だよ。話を合わせてたって考えるのが普通だよな。状況は理解できたよ」
さっきまでの俺はドキドキと緊張が過剰に高まり過ぎてしまい、そんな単純なことにすら気づかなかったようだ。
「でしょー? まったくもー、ユータってばー」
「名探偵・勇太くんも、ここは外しちゃいましたね」
どうやらそういうことのようだった──だがちょっと待って欲しい。
たしかに状況は理解できた。
状況は理解できたんだけど、理由についてはまだ納得できてはいないからな?
「なんでそんなことをしたんだよ? 机の中からラブレターが出てきて、俺マジでビックリしたんだからな?」
「横目で見てたよー。ユータ、取り出しかけて、気づいた瞬間にマッハで机の中に戻してたよねー」
「5時間目の休み時間も、ギリギリまで戻ってきませんでした」
「そりゃそういう反応にもなるだろ? だってラブレターだぞ? ラブレター」
男子高校生がラブレターを貰ったら、みんながみんな俺と同じような態度をするはずだ。
「あれ絶対、人気のないところまで行って確認してたんだよ。多分、校舎の端の階段下の掃除用具置き場とかじゃないかな」
「あら、そうなんですか?」
小春の推理を聞いた姫乃ちゃんが、答え合わせをしたそうな、とても興味深そうな顔で俺を見た。




