第85話 屋上にいたのは――
屋上の扉を開けた途端に、夏の到来を予感させる強烈な日差しが襲ってくる。
高いフェンスに囲まれた、ベンチや机はないものの休み時間や放課後には自由に使えるように開放されたそこは、しかし。
今は閑散としていた。
屋根もないし、日差しにダイレクトに焼かれるもんな。
見晴らしだけはいいけど、休憩には不向きだし、何ができるわけでもないのであまり有用な場所とは俺も思わない。
何をするにしても、緑に囲まれて机とベンチが整備された中庭の方が、はるかに使い勝手がいい。
でも逆に、あまり人がいなくて外からも見られにくいことは、告白だったり、こっそり誰かと会うには逆に向いているのかなとも思わなくもなかった。
そんな静かな屋上には、2人の女の子が待ち構えていた。
それは俺の予想通りの人物で、つまりは小春と姫乃ちゃんだった。
2人と目が合う。
どうにも意識してしまい、普段のように言葉が出てこない。
なんと声をかけたものかと迷っていると、
「ユータ、遅いぞー。女の子を待たせるなんて、大減点だねー」
小春がにへらーと笑いながら声をかけてきた。
「待たせるもなにも、時間は放課後とだけしか指定されてなかっただろ?」
いろんなことを考えながらちんたらと階段を上ってきたので、まさに図星でバツが悪かったのだが、幼馴染みの脊髄反射でに言い訳をしてしまう俺だ。
緊張していたからか、自分でもわかるくらいに早口だった。
そんなどうにも緊張を隠せない俺に向かって、
「勇太くん、来てくれてありがとうございます」
姫乃ちゃんがぺこりと小さくお辞儀をした。
「まぁ、うん。もちろん来るさ。大事な話だもんな。っていうか、やっぱりあのラブレターの差出人は2人だったんだな?」
「へー? 『やっぱり』ってことは、気づいてたんだユータ」
「小春の字は見慣れているから、見間違えようがないし。姫乃ちゃんの字もテスト勉強の時とかに見て、記憶に残ってたからな。そもそも俺にラブレターを出してくれる女の子って時点で、ほぼ絞り込めてたようなもんだしさ」
一目惚れでもなければ、ラブレターを出す時点でそれなりの関係性にあるはず。
とくれば、答えはおのずと決まっていた。
「ふふふっ、さすが勇太くんは名探偵ですね」
姫乃ちゃんが右手を口元に当ててクスクスと笑った。
2人のノリが妙に軽いというか、すごくいつも通りだったので、おかげで俺もさっきまであった緊張感が、少しずつではあるが薄れていた。
「っていうか、なんで2人とも名前を書いてなかったんだよ?」
ようやっといつものように動き始めた口で、俺はまず、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「なんでだと思う?」
「なんででしょう? 当ててみてください」
するとなぜか質問返しをされてしまった。
「なんでここで推理パートに入るんだよ? まぁ察するに恥ずかしかったからか?」
一番可能性が高いであろう答えは、しかし。
「ぶぶー、不正解です」
まさかの×を貰ってしまった。




