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第83話 2通目のラブレター

「じゃあ次はもう1つのラブレターだ」


 俺は高鳴る鼓動に急かさせるように、2通目のラブレターを開封した。

 これぞラブレターって感じのピンク色の便箋(びんせん)が入っていて、そこにとても可愛らしい丸文字で、


『今日の放課後、本校舎の屋上に来てください。』


 とこれまたシンプルに書いてあった。


 そして確認してみると、これまた便箋にも封筒にもどこにも差出人の名前は書いていなかった。


 が、しかし。

 くりくりと可愛らしい丸文字に、俺はとても見覚えがあった。


「これって99パー小春の字だよな」


 これについてはもはや確信すらある。

 これまでテストの見せっこやら、ノートの貸し借りやらなんやらで、小春の字を見る機会はそれほど山ほどあったからな。

 伊達に家が隣の幼馴染みはやっていない。


 出会った頃=小学6年生の頃から全く変わらない可愛らしい丸文字は、間違いなく小春のものだった。


「小春が俺にラブレターか……」


 直接言わずにラブレターで呼び出すっていうのは小春らしくないと、少し思う。

 だけど告白という「今までの関係=幼馴染み」を大きく変える行為であれば、普段と違う行動を取るのも納得ではあった。


 それだけ大事な行為ということだ。

 俺にとっても、小春にとっても。

 告白ってのは一種の儀式なわけだから。


 そしてそれは姫乃ちゃんにとってもきっと同じに違いない。


 俺は2通のラブレターをしまうと、制服のポケットに大事にしまった。


「でもこれ、どうするかなぁ……」


 2通のラブレターは、ともに今日の放課後に屋上に来るようにと書いてある。

 つまりダブルブッキングしているということだ。


 2人だけの状況で告白しようとしているところに別の女の子がいるっていうのは、すごく嫌だと思う。

 常識的に考えて。


 もちろん、たまたまそうなっただけで俺が悪いわけはないのだが、何とも言えないバツの悪さを感じてしまう。


「っていうかどんな確率だよ? 狙ってやってでもしない限り、普通あり得ないだろ? 告白が丸々2つ被るなんてさ」


 その先にあるのは下手をしたら修羅場だ。


「しかしどうしたもんかな……」


 ラブレターの差し出し主が、小春と姫乃ちゃんだったとして。

 当然、俺は2人のどちらかを選ばないといけなくなる。


 2人の優しさに甘え、悩んでいると自分に言い訳して、だらだらグズグズ先延ばしにしていた結論を、今日の放課後までにどちらかを選ぶ=どちらかを選ばないという形で答えを出さないといけないのだ。


「小春と姫乃ちゃん……今恋と初恋。俺はどっちを選べばいいんだ? 俺は――」

 などと考えているうちに、


 キンコンカンコーン。

 休み時間の終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。


「やべっ、6時間目の授業に遅れる――っ!」


 人生最大級ってくらいに悩んでいても、ひとたびチャイムが鳴ったら教室に戻って授業を受けないといけないのが高校生なのだ。


 校舎の外れの階段下からだと、ダッシュで戻ってギリ間に合うかどうかってこともあって、俺は二段飛ばして慌てて階段を駆け上がって教室に戻ったのだった。

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