第80話 俺はどちらを選べばいい――
とはいうものの、だ。
「くっついてても、3人で横になると邪魔になるよねー」
歩き始めてすぐに、小春が俺の腕を離した。
「私もそう思います」
続いて姫乃ちゃんも俺の腕から手を離す。
俺の両腕から温もりと柔らかさが離れていくことに、何とも言えないうら寂しさを感じると同時に、少しホッとする俺だ。
やっぱり人前で露骨にいちゃつくのは恥ずかしいからな。
それに休日の動物園ともなれば、家族連れを中心に人でいっぱいなので、3人並んで歩くと交通妨害も甚だしい。
これはもう致し方なしである。
「自分の勝手を押し通して他人の迷惑になっちゃったら、さっきの2人組人と同じになっちゃうもんなぁ」
「それって最悪だよねー」
「ですよね」
人それを「自己中」と呼ぶ。
「俺たちは良識ある高校生だからな」
「でもでも、歩くときは迷惑だけど、立ち止まって動物を見ている時はくっ付いていてもいいよね。ってわけで、ぎゅー!」
次のエリアにやって来るとすぐに、小春がまたまた俺の腕を抱きしめてきた。
「で、では私も……」
姫乃ちゃんもおずおずと、小春と反対の腕を取る。
「またか?」
「だってユータはアタシたちのカレシだもんねー。これくらい当たり前だしー」
「勇太くんはカレシなんですから、これくらいは当然ですよね」
「むしろしてないと変だよねー」
「ですです」
「……ま、今日はそういう感じでいこうか」
ほんと仲がいいよな、小春と姫乃ちゃんは。
そんな感じで俺たちは周りの迷惑に良識ある配慮をしつつ、普段よりも近い距離感で動物園デートを楽しんだのだった。
そんな風に姫乃ちゃんと小春、魅力的な2人の女の子の間で心が揺れながら、俺は毎日の高校生活を過ごしていった。
俺が2人に好意を抱いているように、2人が俺に好意を抱いてくれているのが事あるごとに伝わってくる。
これに気付かないほど、俺は人の気持ちの分からない人間ではなかった。
「でも、このままじゃまずいよな」
いつかはどちらか1人を選ばないといけなくなる。
このままダラダラとぬるま湯のような関係を続けるわけにはいかなかった。
それはわかってはいたんだけれど、2人と仲良くなればなるほど、よりいっそう俺は2人のことを好きになってしまうのだ。
だってしょうがないだろう。
あの時、終わったはずだったのに、実は終わっていなかった初恋の姫乃ちゃん。
いつも一緒にいて、気付いたら好きになっていた今恋の小春。
俺は2人に本気で恋をしたのだから。
「でも、俺はどちらか1人を選ばないといけないんだ」
俺はどちらを選べばいい――




