表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/92

第8話 再会――二宮姫乃

 俺と黒髪の女の子が無言のやり取りをしている間にも、自己紹介は進んでいき。

 ついにその子の順番になった。


 (はや)る気持ちを必死に抑えながら視線を送る。

 女の子は隣の俺を見て、ふわりと笑った。


「花岡中学校から来ました二宮(にのみや)姫乃です。特技はピアノで、幼稚園からやっています。よろしくお願いします」


 名前も同じなら、特技も同じ。

 そして花岡中学は、引っ越さなければ俺が通うはずだった中学校だった。


 そういや高校の学区は広いから、転校前も転校後も同じなんだっけ――?

 もはや疑う理由は猫の額ほども存在しなかった。


「やっぱり姫乃ちゃんだったんだ――」

 俺の口から懐かしい名前が零れ落ちた。


 転校してから1年くらいは毎晩、部屋のベッドに寝ころびながら口にしては、涙に暮れていた初恋の女の子。


 だけどここ1年くらいはほとんど口に出すこともなかった、胸の奥にようやくしまうことができた思い出の女の子。


 だけど本人を目の前に、その名前を口にした途端に、しまったはずの思い出が(せき)を切ったかのように溢れ出してきた。


 俺の意識は一瞬にして4年前の小学校の頃へと舞い戻っていた。


 給食で姫乃ちゃんの苦手なレバーを食べてあげたこと。(実は俺も苦手だったんだけどいいカッコした)


 そのお礼にって、フルーツポンチをこっそり分けてくれたこと。


 音楽の時間にまるで大人みたいに上手にピアノを()いて、先生にすごく褒められていたこと。

 楽譜の読み方や「ねこふんじゃった」の弾き方も、教えてくれたっけ。


 運動が苦手な姫乃ちゃんに逆上がりのコツを教えてあげて、できるようになった姫乃ちゃんがすごく喜んでくれたこと。


 エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。

 たくさんの思い出が次から次へと湧き出して、俺の脳裏を走馬灯のように駆け巡っていった。


 すぐ隣の席に姫乃ちゃんがいる。

 もう会えないと思っていた姫乃ちゃんがいるんだ。


 俺はもうそのことで頭がいっぱいで、その後のクラスメイトの自己紹介なんてまったく聞いちゃいなかった。


 全員の自己紹介が終わり、


「それじゃあこれで今日は終了とします。明日から頑張ってね。それと早く終わったからって、初日から羽目を外しすぎないように」


 担任の先生の言葉とともに、クラスメイトたちが様々に動き始める。

 みんなが友達グループを作ろうとしたり、早速できたグループで遊びに行こうと動き出したりする中、俺はすぐに姫乃ちゃんに声をかけようとして――、


「勇太くんなんですよね?」


 しかしそれよりもさらに早く、姫乃ちゃんが座ったままで身体ごと俺の方を向いて、話しかけてきた。


 その瞬間、99.999999パーセントの期待が、完全無欠100パーセントの確信へと変わる。


「姫乃ちゃんなんだよな?」 


「はい。小学校で一緒だった二宮姫乃です」


 もう会うこともないと思っていた姫乃ちゃんが、俺の目の前にいた。


「4年ぶりだね」

「はい、勇太くんが水を被って以来です」


「あの時はごめん。姫乃ちゃんにまで水をぶっかけちゃってさ」


 俺は姫乃ちゃんに4年越しの謝罪をした。

 再会したからには、何を差し置いても謝罪が最優先&マストだ。

気に入ってもらえたらぜひブックマークと評価(★★★★★)をお願いします!(*'ω'*)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ