第75話 事件は突然に――
とまぁ俺たち3人は、とても平和に動物園を満喫していたのだが――事件は突然起こった。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってきていいか? なんかまた催してきてさ」
「またぁ? ユータは水分撮り過ぎなんだよねー。しかも一回でガブガブいくし。あんまり水分を取り過ぎると、夏が来る前に夏バテしちゃうよ? 胃液が薄まるんだから」
俺の言葉に、小春が少し呆れたように言った。
気の置けない幼馴染みらしく、いっさいの忖度がない感想をストレートに言ってくる。
「ふふっ、仕方ありませんよ。男の子は基礎代謝量が多いので、より多くの水分を必要とするんです」
「へー、そうなんだ。ま、熱中症になるよりはいいけどさー」
「はい。熱中症は後遺症が残ることもあるので、そうしたら楽しいイベントも残念な思い出になっちゃいますし、水分補給は大切です」
そしてこんな時でも理路整然と優しい姫乃ちゃんである。
なんでも言ってくれる小春と、優しい姫乃ちゃん。
言い方はぜんぜん違えど、どちらも俺をいたわってくれているんだよなぁ。
「悪いけどここからトイレまでちょっと遠いから、適当に何か見ながら待っててくれるか? 急いで戻るからさ」
「じゃあひめのんと一緒に『触れあいエリア』に行ってるね。ウサギとかヤギに触れるんだってー」
「了解。触れあいエリアな」
「あと、ついでにお茶を買ってきてよ?」
「へいへい。冷たい麦茶でいいか?」
「うん、なんでもいいよー。お金は後で渡すね」
いつものように小春がにへらーと笑い、。
「時間はまだまだありますので、急がずどうぞごゆっくり」
姫乃ちゃんもふわりとした優しい笑顔を向けてきた。
「そこは俺が待たせたくないだけだからさ。じゃあ行ってくるな」
俺は2人と別れるとトイレへと向かった。
なるべく2人を待たせないように全力の早歩きで向かったものの。
少し距離があったので、行って、出して、小春のお茶を買って、帰ってくるのに、少し時間がかかってしまった。
「たしか『触れあいエリア』だったよな」
事前にちょろっと調べたところでは、モフモフ可愛いウサギやヤギを実際に触れるエリアで、女の子や小さな子供に特に人気のエリアらしい。
そんなことを思い出しながら俺が触れあいエリアに着くと、すぐに小春と姫乃ちゃんが見つかった。
見つかったのだが――。
2人は、2人組の男に話しかけられていた。
「げっ、あれってナンパか?」
背が高くていかにもチャラそうな茶髪の男2人組が、軽薄な笑みを浮かべながら、馴れ馴れしそうに小春と姫乃ちゃんに話しかけていたのだ。
俺は慌てて2人の元へと駆け寄った。




