第70話 フラミンゴ・トーク
ゲートをくぐると、まずはフラミンゴがお出迎えしてくれる。
バサバサバサバサ!
クックック、クェー!
クックック、クェー!
赤い色をしている以外は鶴にそっくりな大きな鳥が何十羽も、ネットで囲われた水辺エリアを動き回っている。
「あははー、フラミンゴっていつ見ても元気だよね。他の動物は寝てたり動かなかったりなのに」
小春が笑いながらサラッと言った言葉に、俺は思わずハッとさせられた。
「言われてみればたしかに……。動物園の中でフラミンゴだけ異常に活動的だよな」
ゾウも、パンダも、サイも、キリンも、今はいないがライオンも。
動物園の動物はみな、ゆったりと生活しているのに、フラミンゴだけは違っている。
「私も今の今まで気にしていませんでしたが、小春ちゃんの言う通りですよね。他の動物とは違って、フラミンゴは元気よく鳴いて、元気よく走り回っています。すごく活動的です」
入園早々、目の付け所がシャープな小春である。
クックック、クェー!
クックック、クェー!
クックック、クェー!
「あとフラミンゴといえばユータだよねー」
そんな冴えてる小春はしかし、にんまり笑うとそんなことを言い出した。
「おい小春。姫乃ちゃんの前でその話はやめるんだ」
俺は慌てて口止めしたものの、
「えっと、なんでなんですか? どういう関係性が?」
姫乃ちゃんが興味深々って顔で話に食いついてきてしまった。
「あのねあのね――むぐっ」
「いや、なんでもないから気にしないでね」
俺は慌てて小春の口を手で抑える。
俺の恥ずかしい秘密を、姫乃ちゃんに暴露させるわけにはいかないからな。
「ううっ、気になります……」
しかし姫乃ちゃんが、それはもうしょんぼりとした顔を向けてきた。
仲間外れにされたと思ってしまったのかもしれない。
くっ、こうなってしまっては隠すのはもはや邪悪!
まぁ、大したことじゃないと言えば、大したことじゃないしな。
俺が小春の口から手を離すと、小春は「ぷはぁ!」と盛大に息を吐いてから、俺の秘密を語り始めた。
「あのね、ユータって昔、フラミンゴが言えなかったの。ね、ユータ?」
「まぁ……な」
「えっと、言えなかったというのは、どういう意味でしょうか?」
しかしこれだけでは意味が分からなかったようで、姫乃ちゃんは右手の人差し指を立てて口元に当てながら、小さく小首をかしげる。
「文字通り、言えなかったの。何でか知らないけど、フラメンゴって言っちゃってたんだよねー、ユータ?」
「マジでどうしても言えなくてさ。気付いたらフラメンゴって言っちゃってたんだよな」
フラミンゴって覚えるんだけど、すぐに「あれ、どっちだったかな?」ってなってしまい、2択で必ず外して」フラメンゴと言ってしまう時期があったのだ。
「あ、そういうことですか。ありますよね、そういうの」
と、そこで姫乃ちゃんは俺にあっさりと同意をしてくれた。
「あれ、もしかして姫乃ちゃんもそういうの何かあったのか?」
「はい。私は結構ベタと言いますか、エレベーターとエスカレーターが長らくごっちゃになっていました。今でも時々、アレっと思うことがあって、少し考えてから言うようにしているんです」
「ひめのんにそーゆーのあるって、なんかちょっと意外かも」
「まぁ、エレベーターとエスカレーターはもうちょっとわかりやすく違ってるべきだとは思うよなぁ」
「ですよね? 似すぎてますよね? そうですよ。あれは良くないと思います」
自分で言って、うんうんと力強くうなずく姫乃ちゃん。
こうして俺はまた、姫乃ちゃんの新たな一面を見ることができたのだった。




