第7話 左に今恋の幼馴染。そして右には――
入学式はつつがなく終わり、俺と小春は話しながら1年1組の教室へと向かう。
「どうして校長先生の話ってのは、誰も彼もあんなに長いんだろうな?」
「んー、それが仕事だから?」
「それなら仕方ないか」
「仕事だもんね」
ヤバい、すっごく納得した。
教室に着いて黒板に張り出してあった席表を確認すると、俺と小春は見事に隣どおしだった。
「えへへー、またユータと隣の席だねー」
「苗字が近いからな。いつものことだろ?」
「とかなんとか言って嬉しいくせにー」
「否定はしないけどさ」
小鳥遊小春と天道勇太。
頭文字が「た」と「て」なこともあって、俺たちはクラス替えでクラスになるだけでなく、いつも隣同士の席だった。
指定された席に座って、左隣に座る小春と話をしていると、担任の先生がやってきてホームルームが始まる。
各教科の教科書を貰ったり、連絡事項だのなんだの説明を聞いてから、恒例の自己紹介が始まった。
あいうえお順で進んでいって、小春の番がやってくる。
「小鳥遊小春です。大池中学出身です。小鳥が遊ぶと書いて『たかなし』って読むんだけど、初見だと難しいので、がんばって覚えてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
クラスメイト達が「あの子めっちゃ可愛くね?」「ちょー可愛い~」と男女ともにざわめいた。
さすが小春。
モテ女王っぷりは高校でも健在だ。
その後ほどなくして俺の順番が回ってきて、自己紹介をしたものの、
「天道勇太です。大池中学出身です。よく間違えられるんですが『せんどう』じゃなくて『てんどう』です。よろしくお願いします」
俺の定番の自己紹介をしたものの、小春の時のようにクラスメイトがざわめいたりはしなかった。
ふーんって感じだ。
だけど小春と反対側――俺の右隣の女の子だけが、なぜかガタっと大きな音を立てながら身体ごと俺を向くと、俺を見上げてきた。
綺麗な黒髪ロングの女の子だった。
まるでモデルのようにスタイルが良くて、細身だけど出るところはちゃんと出て女らしさに溢れてあふれていて、美人で、これぞ大和撫子って感じだった。
その子は目を大きく見開いて、驚いたような顔をしていた。
口がパクパクと動く。
やっぱり、って言った気がしたけど、実際のところはわからなかった。
な、なんだろう。
自己紹介で変なこと言ったっけ?
少なくとも、俺がイケメンだと思って見とれているわけではないのは間違いない。
右隣の女の子は、俺が席に座っても視線を送り続けてきた。
視線を外しずらかった俺は、なんとなく愛想笑いを返す。
美人だなと思う。
小春が可愛い子犬系だとしたら、この子は清楚な美人系だ。
絹糸のようにさらさらの黒髪は本当に綺麗で、横髪を抑えるために、デフォルメされた黒猫のヘアピンをしていた。
高校生がするにはやや幼さを感じさせるヘアピンだ――――えっ!?
そのヘアピンを見た瞬間に、俺の記憶に鮮やかな思い出が蘇った。
姫乃ちゃん――。
うそ……だろ……?
そんな、まさか――。
この瞬間の俺は、すごく驚いた顔をしていたと思う。
しかしすぐに、落ち着けと自分に言い聞かせた。
冷静になるんだ天道勇太。
あの黒猫のヘアピンは市販品だったはず。
だったら姫乃ちゃん以外がアレを持っていても、別に不思議じゃない。
だけど、それならさっきの反応はどうやって説明する?
俺が自己紹介した途端に、びっくりした顔で俺を見つめてきたのはなぜだ?
一番しっくりくる理由は、俺の名前に覚えがあったからじゃないのか?
ぽっちゃり体形とは正反対のスラリとした身体つき。
すっかり大人びた顔立ち。
だけど艶やかな黒髪は、長さ以外は記憶の中の姫乃ちゃんとそっくりそのままで、目元にも姫乃ちゃんの面影を感じていた。
なにより俺が驚いた顔をした時に、嬉しそうに笑ったその笑顔に俺は確信のようなものを抱いていた。
まさか、まさか本当に姫乃ちゃんなのか?