第69話『おっはー』な姫乃ちゃん
駅を降りて改札を抜けると、すぐ目の前に動物園のゲートがデンと鎮座していて、俺たち来訪者を歓迎感いっぱいにお迎えしてくれる。
「駅近でいいよね~」
「駅近っていうか、もろ駅前だもんな」
「しかも街中なのでアクセスは抜群です」
「動物園の名前の付いた駅で降りたら、目の前が動物園。お客さんを絶対に迷わせないという鋼の意思を感じるよね」
「だよな」
「子供の頃は何も思いませんでしたが、これって親子連れには最高の立地ですよね。これなら疲れた子供がすぐに家に帰れますから」
「ってわけで! 久しぶりー! 今日はよろしくねー♪」
「オージ動物園、またお前と出会う日が来るとはな。天気もいいし、今日はよろしく頼むぜ」
「ど、動物園の擬人化……?」
童心に帰った俺と小春のノリに、姫乃ちゃんはやや困惑気味だ。
「ひめのん、テンション上げてこーよ!」
「そうだぞ姫乃ちゃん。挨拶は社会の潤滑油さ。まずは元気よく挨拶から始めようぜ!」
「な、なるほど……ですね……? では、こほん……おっはー!」
俺と小春に簡単にまるめこまれてしまった、とても根が素直な姫乃ちゃんが、可愛くも力強い挨拶を決めた!
するとお母さんに手を引かれて歩いていた小さな子供がこっちを見て、
「おっはー!」
と可愛らしく姫乃ちゃんの真似を返してきた。
遅れてお母さんも笑顔を向けてくる。
「いぇーい♪ おっはー!」
それに笑顔で手を振って返す小春。
俺と姫乃ちゃんも小さく手を振った。
動物園という平和な場所にふさわしい、とても平和な朝のひと時だった。
「ところで『おっはー』ってのは、なんなんだ? いや、おはようの変化系なのはわかるんだけどさ」
俺が初めて聞く種類の「おはよう」だった。
「『おっはー』はお母さんの世代で流行った挨拶だそうです。昨日の夜のテレビで、昔の日本の特集をしていて、そんなことを言っていました」
丁寧に解説をしてくれる姫乃ちゃん。
「へー。そういうアレだったんだ」
「親世代の流行りかぁ。そりゃ俺たちは聞いたことないよな」
「当時は国民的な挨拶だったそうですよ。私のお母さんも、それこそ毎日のように言っていたみたいです」
「さすがにひめのん、物知り~! よっ、中間テスト日本史満点!」
「学年主席は伊達じゃないってね。やるな姫乃ちゃん」
「ええっと、日本史どころか、たんにテレビで見ただけなんですけど……」
俺と小春に褒め褒めされて、またまた困惑気味に照れる姫乃ちゃんだった。
「じゃ、挨拶も済んだし、そろそろチケット買おうよ」
「だな」
「楽しみです」
なんて話しながらチケット売り場で入場券を買って、俺たち3人はゲートをくぐって動物園へと入場した――!




