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第68話 姫乃ちゃんの「めっ!」

「そ、そんなんじゃないってーの。なぁ姫乃ちゃん?」

「そ、そうですよ。いたって普通の会話ですよ?」


 俺と姫乃ちゃんはお互いに見合うと、どちらからともなくコクコクとうなずいた。


「普通ねぇ……っていうかユータ」

「な、なんだよ」


 小春がジトーっとした目で睨んでくる。

 幼馴染みの俺にはわかる。

 これは今から文句を言おうとしている時の顔だ。


「ひめのんのコーデは褒めたのに、アタシの服については今に至るまで、一言も、何にも、これっぽっちも言ってこなかったよね?」


「なんだそんなことかよ。小春の私服はいい加減、見慣れてるからなぁ」


「ぶぅ!」


「その服だって、前に遊びに行った時に着てただろ? 高校の入学祝いに買ってもらったお気に入りの編み紐ショートブーツに、このコーデが一番似合うんだーって、嬉しそうに言ってたじゃないか。俺、覚えてるぞ」


 今日の小春はすごくオシャレな赤茶色のショートブーツを履いていた。

 お気に入りというだけあって、めちゃくちゃよく似合っている。


「ユータ、覚えてくれてたんだ……」


「そりゃ覚えてるよ。小春があんなに嬉しそうに教えてくれたんだからさ。忘れるわけないだろ?」


「う、うん……そっか。うん、えへへ……ありがと、ユータ♪」


 俺の説明に納得がいったのか、小春がにへらーと締まりなく笑った。


 これで一段落と思ったのだが――しかし今度は姫乃ちゃんが、とても真面目な口調で言った。


「勇太くん、たとえ見慣れていても、ちゃんと最初に褒めないといけません。だって勇太くんと今日遊びに行くために、小春ちゃんは可愛く着飾ってきたんですから。親しき仲にも礼儀ありだと、私は思うんです」


 姫乃ちゃんが「めっ!」って感じで右手の人差し指を立てた。

 そして言っていることはとても正論で、すごくいいことで、なにより人として当たり前のことだった。


 姫乃ちゃんに(さと)されて、俺はおおいに反省した。

 小春との幼馴染みという関係に、俺は少し甘えていたのかもしれない。


「ごめんな小春。今度からはちゃんと会った時に伝えるから」

「べ、別に、そんな真面目に謝られなくてもいいしー。幼馴染だしね」


「というわけで今日は今から言わせてくれ。よく似合ってるよ。特にショートブーツが可愛さと大人っぽさの両方があって、すごく素敵だと思う」


 俺は普段のおちゃらけた幼馴染み同士のやりとりでなく、一人の女の子に対しての素直な気持ちを、まっすぐ言葉にして小春に伝えた。


「ユータさ……」

「なんだ?」


「褒めてもらえたのは嬉しいんだけど、ユータに真面目な顔で褒められたら、逆になんか嘘くさいなって」


「ひでぇ!?」


 そんな風に小春は言ってはいるものの。

 しかしそれが小春の照れ隠しであることは、幼馴染みの俺には当然、伝わっているのだった。


 そんなやり取りをしているうちに、俺たちは動物園のある駅へと到着した。

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