第64話「どっちもですね♪」
「ちょっとユータ。そこは否定するところでしょ? 『小春はそんなこと言わないよ』って」
ったく、しゃーねーな。
小春はそうやってすぐ甘えんぼするんだからよ。
いいさ、ここは俺が大人の男ってもんをみせてやるとするか。
「小春はそんなこと言わないよ」
「あ、わざとらしー! なにそれー!」
「こ、こいつぅ……!」
せっかく話を合わせてやったのに、なんて言い草だ。
俺は今、言いようのない理不尽を感じたぞ……!!
「ふふふっ」
俺と小春のやり取りを見て、姫乃ちゃんが思わずといった様子で笑い出す。
「もぅユータってば。ユータのせいでひめのんに笑われたでしょー」
「俺のせいかよ? むしろ小春のせいだろ?」
「ちがいますぅ、ユータですぅ」
「小春だっての」
「ひめのん、どっち!?」
「姫乃ちゃん、どっち?」
まったく同じタイミングで姫乃ちゃんに尋ねる俺と小春。
すると姫乃ちゃんは「そうですね……」とつぶやくと、少し考えてから言った。
「どっちもですね♪」
さすが姫乃ちゃん、誰も傷つかない極めて平和な回答だった。
「さてと。バカ話はそろそろ切り上げて、作業に戻るか」
「最後にもう一杯、お茶飲んでから行こうよ」
「でしたら今度は私が注ぎますね」
姫乃ちゃんが注いでくれたお茶を、またまた3人そろって飲み干すと、俺たちは再び暑さの中に舞い戻って雑草抜きを始める。
お茶を飲んで熱が取れたのと、身体が暑さに馴染んできたからか、そこからは少し楽になった気がした。
「さっきの話の続きなんですけど、クリーン作戦に参加すると指定ゴミ袋が貰えるじゃないですか。10枚入りなので、お母さんが喜びます」
家庭的な姫乃ちゃんにほっこりしたり。
「それなら紙パックのジュースも貰えるよね。ランダムだけど。ピーチが美味しそうだったから、当たったら交換してね」
「いいけど、野菜ジュースとじゃなかったらな」
見えたんだよな、フルーツ系ジュース以外に野菜ジュースとお茶が混じっているのが。
「勇太くんって、野菜ジュースは嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないけど、そんなに好きってわけでもないかなぁ。だって普通のジュースの方が普通に美味しいだろ?」
欲しい順としては、ジュース>お茶>野菜ジュースだよなぁ。
「まぁ、そうですよね。ふふっ」
なんてどうでもいい会話をしたりする。
「そう考えると意外とありかもな、クリーン作戦」
「あとは暑くなければね……」
「これで暑くなかったよかったんですけどね」
「ほんとそれな」
結局、最初の結論へと戻ってしまった俺たちは「はぁ……」とため息をついたのだった。
その後、もう1回、2回と休憩を挟みつつ、俺たちは3時間に及ぶクリーン作戦を完遂した。
ちなみに小春は最後のランダムジュース配布で、自力でピーチのジュースを引き当ててみせた。
さすが小春、なにをやらせても結果が強い。
かくいう俺と姫乃ちゃんも、無難にフルーツ系のジュースを引き当てることができていた。




