第6話 幼馴染みに告白しようと思っている。
「たしかに5年連続はなかなかないよな」
「でしょでしょ?」
「でもそっか。また小春と一緒のクラスになれたんだ。そっか。そっか――」
「どしたのユータ?」
小春はツンツンしていた人差し指をひっこめると、可愛らしく小首をかしげた。
実は、ここ最近の俺はずっと考えていたことがあった。
それはズバリ、小春との関係を一歩前に進めたいってことだ。
はっきり言って俺と小春の関係は幼馴染みの一線を越えていると思うんだ。
少なくとも俺は小春に、それなりの好意を持ってもらってはいるはず。
だからもし高校でも同じクラスになれたら、勇気を出して小春に告白しようって、俺は心に決めていたのだ。
そして見事に2人同じクラスになることができた。
小春が言うように、本当に運命だったのかもしれない。
もちろん撃墜女王と呼ばれるほどにどんないい男も寄せ付けず、男性関係が皆無だった小春だ。
だからお隣さんの幼馴染みだからってだけで、俺と仲良くしてくれているだけなのかもしれない。
事あるごとに俺の面倒を率先して見てくれているし、弟みたいに思われている可能性もあった。
だけど俺は、小春に惹かれている自分を偽って、ただの幼馴染みの振りをし続けるのは、もうこれ以上我慢できそうになかった。
小鳥遊小春という女の子は、本当に魅力的な女の子だったから。
なによりずっと忘れられなかった、胸を焦がすような姫乃ちゃんとの初恋の思い出も。
あの一件のことも。
お別れすらできなかったことへの感傷も。
今ではだいぶ薄れてきていて。
だから過去に区切りをつける意味でも、俺は小春に告白しようと考えたのだ。
姫乃ちゃんとの思い出を、いつまでも引きずっているわけにはいかないから。
(告白失敗したら気まずいことこの上ないだろうけど、小春の性格ならある程度時間がたてば、今まで通りに接してくれるに違いなかった)
姫乃ちゃんのことが嫌いになったわけじゃない。
それどころか、今でもきっと俺は姫乃ちゃんを好きなままだった。
だからこそ。
もういい加減に断ち切って前に進まないといけないんだ。
「今日の放課後さ。入学式が終わったら話したいことがあるんだけど、いいかな?」
俺は小春に提案する。
いつの間にか心臓がバクバクと早鐘を打っていた。
上擦りそうな声を必死に抑えた。
「暇だからいいけど? 今日は11時には終わるらしいし。ところで何の話? 今じゃダメってことなんだよね?」
「大事な話だから今じゃないほうがいいかな」
「大事な話? あ、もしかして告白とか? やだもー! ユータがオマセなんですけどー」
小春はいかにも冗談って感じで言ってきたんだが、
「う――っ」
ピンズドで図星を指されてしまった俺は、思わず言葉に詰まってしまった。
「え、あの、えっと……えぇぇ!?」
小春が目を大きく見開いた。
顔がみるみる真っ赤になっる。
「ち、違うからな! か、勘違いするなよな! ああもうこの話は終わり! 終了! また放課後にな!」
「う、うん……待ってるね」
俺が強引に誤魔化すと、小春はかすれるような小さな声とともにコクンとうなずいたのだった。
なんだか予定とはおおきく違ってしまったが仕方ない。
ともあれ約束は取り付けた。
あとは俺がやるだけだ。
この時の俺はすごくやる気だった。
並々ならぬ決意を抱いて告白に臨もうとしていた。
小春に告白することに意識をすっかり持っていかれてしまっていた。
だから俺は完全に見落としてしまっていた。
同じクラスに懐かしい名前があったことを。
俺の胸の奥に押し込んだはずの初めての恋を、再びヴィヴィッドに呼び覚ますその名前を、俺は完全なまでに見落としてしまっていた――。