第59話 勇太プレゼンツ・姫乃ちゃんグレートウォール(万里の長城)ディフェンス
姫乃ちゃんが守るのはゴール下だ。
そこに姫乃ちゃんはどっしりと居座って、周囲ににらみを利かせる(ってほど怖い顔ではなく、ただの真剣な顔なのだが)。
そんな守備の急所であるゴール下から動かない姫乃ちゃんからは、守護神の風格すら感じられるだろう――相手チームからしてみれば。
もちろん実際のところは違っていて。
姫乃ちゃんは運動神経があまりよくないため、スペースがある広いエリアを守ると、いとも簡単にかわされてしまう。
なので、なるべく動かなくていいところ。
つまりは、必ず相手が向かって来てくれるゴール下を守ってもらうことにしたのだ。
これが俺が姫乃ちゃんのために考案した、勇太プレゼンツ・姫乃ちゃんグレートウォール(万里の長城)ディフェンスである!
さっそく姫乃ちゃんの守るゴール下に、相手オフェンスが近づいてきた。
行けっ、姫乃ちゃん!
グレートウォール(万里の長城)発動だ!
「はふっ!」
姫乃ちゃんが真剣な表情で両手を上げた。
それはまるで何千年にもわたって中国を外敵から守り続けてきた、万里の長城のごとし!
さあ来いとばかりに構える姫乃ちゃん。
が、しかし。
姫乃ちゃんはそこから何かをするわけではなかった。
というのも、姫乃ちゃんはジャンプ中に目を閉じる癖があるため、ジャンプブロックが出来ない。
そもそも相手のジャンプに合わせてタイミングよく自分も飛ぶ、ということからして上手くできない。
さらに根が正直なのもあるのだろう、単純なシュートフェイントにもいとも簡単に引っかかってしまう。
ゆえに姫乃ちゃんは全ての動きを捨て、ただ手を上げてゴール下に立ち続ける。
相手にフェイントされようが、ドリブルされようが、パスを回されようが、シュートを打たれようが。
姫乃ちゃんは身体の向きを少し変えるくらいで、それ以外は変わらずにゴール下で手を上げ続ける。
すると相手選手が姫乃ちゃんをかわして打ったシュートが、リングに当たって大きく跳ねた。
こぼれ球を小春が鋭い反射神経で手際よく拾うと、味方にパスをして一気にカウンター攻撃が始まる。
「よし、ナイスディフェンスだ姫乃ちゃん!」
そう!
これこそが姫乃ちゃんグレートウォール(万里の長城)ディフェンスの神髄!
姫乃ちゃんの高さを生かし、ひたすら相手のミスを待つという、守備における『何もしない作戦』なのだ!
結局のところさ。
俺も含めて素人の試合なんだよな。
小春みたいにズバ抜けてバスケが上手い生徒はまずいないし、今回は小春は頼れるチームメイトだ。
運動部はたしかに体力や運動センスがあるが、バスケが上手いというわけではない。
つまりほぼ全員がバスケ素人。
となれば、こうやって相手の行動に対してなにかしら邪魔になりさえすれば、それだけでそれなりの効果は期待できるというものだった。




