第56話 姫乃ちゃん、連続得点を決めるの巻。
「ちょ、ちょっと。あの子、下手だって言ってなかった? ぜんぜん上手いじゃん、どういうことよ?」
「知らないわよ、ただのまぐれでしょ」
焦ったような会話が相手チームから聞こえてくる。
しかしまぐれだと甘く見た相手チームに、姫乃ちゃんはまたまた同じようにパスを貰うと、姫乃ターンから、
「膝からギュー!」
掛け声とともに、勇太プレゼンツ・姫乃ちゃんスペシャルシュートを放った!
ちなみにこの掛け声は、手だけじゃなくて膝の力を使って、身体全体でギューッと押し出すようにシュートをするんだよって俺が説明したら、姫乃ちゃんが、
「膝からギューですね、膝からギュー、膝からギュー。膝からギュー」
とつぶやきながら打ったシュートがいい感じに入ったので、それ以来、姫乃ちゃんはシュートを撃つときに願掛けみたいに言っている。
一生懸命さが伝わってきて可愛いよな。
そしてボードに当たったボールがリングの上で大きく跳ね、一瞬、落ちそうになりながらも、しかしリングの淵をぐるりと回って、最後はネットを潜り落ちた。
「やりました! 2本目です!」
「ひめのん、ナイシュッ♪ イェーイ!」
「い、いぇーい!」
小春は勢いよく、姫乃ちゃんは何とも恥ずかしそうな仕草で、ハイタッチをする。
「いいぞ姫乃ちゃん。これで試合の流れは完全に決した!」
2分の2、成功率100%で立て続けにシュートを決めた姫乃ちゃんを、もう相手は無視することはできない。
連続得点を決めた姫乃ちゃんを警戒し、相手のディフェンスがマークについた。
しかしそれは、小春が自由に動けるようになったことを意味している。
「ニヤリ……」
小春の口元が緩んだのが、幼馴染みの俺にはわかった。
ついに自由の翼を手にした小春が、そこからどんどんと得点を量産していく。
「小春ちゃん、パスです! こっちです!」
味方から小春にパスが渡るとすぐに、姫乃ちゃんが自分にパスを要求する声を出した。
相手ディフェンスは姫乃ちゃんにピタリとマークに着いたままだ。
もちろん、こうなると姫乃ちゃんはもう何もできない。
だが思い出してほしい、それこそが本来の姫乃ちゃんの役割だということを!
「甘いな。もう姫乃ちゃんにはボールは来ないさ」
姫乃ちゃんのゴールを見せた後は、再びの囮作戦フェーズ1でジ・エンドってわけだ!
小春は、姫乃ちゃんへのパスフェイントで自身のマーカーを上手く外すと、ドリブルでゴール下に持ち込んで、あっさいとゴールを決めた!
「小春ちゃん、ナイシューです!」
「へへへー! まだまだいくよー!」
こうして姫乃ちゃんの「囮作戦・第2フェイズ」が見事にはまり、1組女子は初戦に続いて第2戦も白星を飾ったのだった。




