第55話 勇太プレゼンツ・姫乃ちゃんスペシャルシュート
それでは今の姫乃ちゃんの動きを説明しよう!
そもそもたった9日でできることは、限られている。
それも運動が超苦手な姫乃ちゃんだ。
あれもこれもやるのは逆立ちしたって不可能だった。
その前提のもと、姫乃ちゃんはまず、身体を動かないで自身が囮となる演技と声賭けを、この9日間ひたすら練習してきたのだが。
やはりどこかで囮作戦が看破されることを想定した俺は、囮作戦と並行して、この一連のシュートアクションを姫乃ちゃんに教えたのだ。
姫乃ちゃんのアクションはたった3つ。
ボールを持った小春がゴール前の特定の位置にいて、そこから出された緩いワンバウンドのパスを、ずっと陣取っているゴール左斜め下でもらうのが、最初の1つ目だ。
そして2つ目が、左足を軸にしたピボットターンで90度左回転。
最後の3つ目は、ジャンプはせずに膝のためをしっかり使った両手シュートでボードを狙い、当たった跳ね返りでゴールネットを揺らすこと。
これが囮作戦が見破られたときの対策として、俺が姫乃ちゃんのために用意し。
何百回、何千回とめげずに反復練習し続けた姫乃ちゃんが、ついに習得した――とまではいかないがある程度できるようになった――たった1つの必殺シュートだった。
姫乃ちゃんはボールキャッチがめちゃくちゃ苦手で、強いパスやノーバンのパスはどうしてもキャッチができずに弾いたり、身体に当ててしまう。
ドリブルをしたら、ボールがすぐにどこかに行ってしまう。
ジャンプはほんの一瞬、小さく浮くだけ。
しかも空中で目をつぶってしまう癖があるので、ジャンプ中に何かをするというのができなかった。
そんな運動が苦手な姫乃ちゃんのために、姫乃ちゃんにできることを俺が厳選し、できることだけを最低限だけ足し合わせて形にした、これが勇太プレゼンツ・姫乃ちゃんスペシャルシュートなのだ!(ドヤァ!)
そのたった1つの必殺シュートが、ここぞの場面で見事に火を噴いた。
「あの位置からのシュートだけを、ひたすら練習したもんな。ナイスゴールだ姫乃ちゃん」
つきっきりで姫乃ちゃんの練習に付き合ったこともあって、まるで自分のことのように嬉しくなってしまい、なんかもう目頭が熱くなってくる俺である。
ちなみになんだけど、少しでも何かがずれると、まったくシュートは入らなくなる。
パスが練習と違う位置から来るだけで、姫乃ちゃんはそもそもボールをキャッチすることができない。
本当にピンポイントであの位置からのみ。
しかもキャッチできる緩いワンバウンドのボールが、ノーマークで来た時だけ。
姫乃ちゃんはこの必殺シュートを決めることができるのだ。
(と言っても練習での成功率は5割くらいだったが)
もしこれが部活レベルならすぐに対応されてしまうだろうが、あいにくとバスケ部は審判にかかりきり。
ここにいるのは俺も含めて全員がシロウトだ。
姫乃ちゃんの活躍のトリックは、最後まで見破られることはないはずだ。
この試合、勝てる――!!




