第53話「なんでそうやっていつも、2人だけの世界に入っちゃうのかなぁ~? ここにはアタシもいるんですけどぉ~?」
「どうでしたか? わたしとしては、結構うまくやれたと思うんですけど……」
試合が終わるとすぐに俺のところにやって来た姫乃ちゃんが、おずおずと感想を尋ねてきた。
「外から見てる分には完璧だったよ。もう言うことなしだ」
もちろん俺は姫乃ちゃんをべた褒めする。
スポーツは技術や運動神経だけじゃない、頭脳もまた必要なのだということを、姫乃ちゃんはプレーで証明してみせたのだから。
「本当ですか? 良かったぁ……」
姫乃ちゃんが安心したように、胸に手を当てながら大きく息を吐いた。
そこへ小春もやってくる。
「ひめのん、やったね♪ もうチョー良かったよ」
「お役に立ててよかったです」
「もう、ひめのんってば。役に立ったなんてもんじゃないから。途中でバレー部の子にマークされた時はかなりキツかったんだけど。ひめのんのおかげで、すっごくやりやすくなったんだから。ひめのん、超ないすぅ、だよ!」
喜色満面でグッと右手の親指を立てる小春。
「ふふっ、お二人に褒めていただけて、ちょっとだけ自信が持てました」
姫乃ちゃん可愛らしく両手をギュっと握った。
「ちょっとなんて言わずに、しっかり自信もっていいと思うぞ。いっぱい練習して、その練習の成果をちゃんと試合で出せたんだからさ」
「勇太くんが毎日付き合ってくれて、アドバイスもいっぱいくれたおかげです」
「いやいや、姫乃ちゃんが頑張ったおかげだっての。胸を張りなよ。練習初日と今の試合じゃ、別人ってくらいに大違いだったから」
練習初日の姫乃ちゃんは、ずっとおどおどしていた。
だけどもう、泣きそうな顔でボールを見ていた姫乃ちゃんいない。
「ですが運動が苦手な私だけだと、改善するのも一苦労ですから。勇太くんのアドバイスあってこその今日のプレーだと思います」
「姫乃ちゃんは奥ゆかしいなぁ。これぞ大和撫子って感じだ」
「素敵な日本語ですよね、大和撫子」
などと話していると、
「なんでそうやっていつも、2人だけの世界に入っちゃうのかなぁ~? ここにはアタシもいるんですけどぉ~?」
俺と姫乃ちゃんの間に、小春の顔がニュウっと割り込んできた。
「だからそんなんじゃないって。勘繰り過ぎだっての」
「そ、そうですよ小春ちゃん」
「だったらひめのんばっかり褒めてないで、アタシのことももっと褒めてよねっ」
ああ、なるほど。
エースの活躍で勝利の立役者になったのに、俺が褒めてくれなかったから拗ねてるのか。
ほんと小春は可愛い奴だなぁ。
「うちのチームの得点の半分以上が小春だろ? すごく頑張ってたよな。えらいぞ。さすがは小春だ」
俺は優しく言いながら、小春の頭を撫でてあげる。
「えへへ……」
たったそれだけで小春は拗ね拗ねモードから一変、にへらーとしまりのない笑みを浮かべたのだった。
「次も頼んだぞ。エース小春」
「うん、任せてよ」
姫乃ちゃんも小春も調子は良好。
これは次の試合も楽しみだな。




