第52話 姫乃ちゃん、初陣! vs 2組女子
そして1組女子の試合が始まった。
対戦相手は2組だ。(もちろん女子な)
まず序盤は、
「小春ちゃんナイシュー!」
「いぇい!」
我らが1組が誇るエースの小春が、順調に得点を重ねていったのだが。
当然、小春は厳しいマークにあってしまう。
2組の攻守のエースである、バレー部所属の一番背の高い選手が、小春のマークに着いた。
バスケは残酷なまでに高さがモノを言う競技だ。
小春は運動神経が抜群で、中学時代はバスケ部に何度も勧誘されるくらいバスケが得意だが、いかんせん小柄だ。
というか中学2年くらいから、ほどんど背が伸びていない。
バレー部との身長差は歴然だ。
圧倒的身長差の前に、
「くっ……このっ!」
小春は目に見えて苦戦を強いられてしまう。
というわけで、ここからが姫乃ちゃんの出番である。
「小春ちゃん! こっちです! ヘイ、パス!」
敵のゴール下、左斜め前で、姫乃ちゃんが手を高くあげる大きな身振りでパスを要求した。
相手に嫌でも高さを意識させる動きは、姫乃ちゃんの練習と研究のたまものだ。
スマホで動きを撮影し、何度も見返しては修正に修正を重ねてきた姫乃ちゃん。
その磨き上げられた囮の動きと絶妙なタイミングの声かけに、2組は見事に引っかかった。
味方からパスを貰った小春が、パスを要求してきた姫乃ちゃんに思わせぶりな視線を向ける。
するとそれだけで、相手の守備体形が大きく乱れたのだ。
「私があのでかい子を見るから、こっちはお願い!」
具体的には、ずっと小春とマッチアップしていた2組のエースが、姫乃ちゃんにマークを切り替えた。
バレー部で背の高い2組のエースが、実は何もしないでただそこにいるだけの姫乃ちゃん――しかも実はそこまで背は高くない――のマンマークに着いたのだ。
結果、小春へのケアとゴール下の防御力が著しく低下した2組ディフェンスを、
「もーらいっ!」
小春はゆうゆうと突破してゴールを奪った。
「よしっ!」
ナイスアシストだよ姫乃ちゃん!
思わずガッツポーズが出る俺。
今のはマジで最高に理想的な囮プレーだった。
「小春ちゃん、ナイシューです」
「まーねー」
頭脳的コンビプレーを決めた2人が笑顔でハイタッチをかわす。
ちなみにこの囮の声をかけるタイミングも、姫乃ちゃんは熱心な研究と練習によって、既に3種類ほど習得していた。
今のはオフェンス時に早めのタイミングで声をかけることで、相手のキープレイヤーを自分の方へと釣りだす声かけだ。
他にも小春のドリブル中に声をかけて小春についたディフェンスにパスを意識させる声かけなどがあり、言うなれば今の姫乃ちゃんは囮マイスターなのである!
「小春ちゃん、こっち! 逆サイドです!」
それからも姫乃ちゃんの囮のかけ声は、敵の注意を引き、味方にスペースを与え、様々な目に見えないプレーとなって、2組チームを幻惑していく。
なにせバスケは残酷なまでに高さがモノを言う競技だ。
である以上、2組チームは、1組チームで一番タッパのある姫乃ちゃんを無視することは絶対にできないのだから。
姫乃ちゃんはオフェンスでは得点するどころか、ただの一度たりともボールに触らなかったが。
その貢献度はもはや語るまでもなかった。
そのまま試合はエース小春の活躍と、それを陰で支える姫乃ちゃんの囮プレーによって、我らが1組が押しきって快勝した。




