第49話「ええと……つまりヘディングということですか?」
「ええと……つまりヘディングということですか?」
「あはは、ひめのんってば。それじゃサッカーだよー」
これ、姫乃ちゃんがボケを言ったように見えるけど、多分ネタじゃなくて、マジレスしてると思う。
真面目な姫乃ちゃんの性格からして、ここで冗談を言ったりはしないはずだから。
「バスケだからヘディングはしないんだけどね。姫乃ちゃんは女子の中では背が高い方だよね?」
「そうですね。高いといってもせいぜい10センチ程度ですけど」
「ゴール下とか向いてそうだよねー」
「そう、そうなんだよ! しかも手足がスラリと長いから身長差以上に高さが出るだろ? 攻撃時、ゴール下に姫乃ちゃんがいるだけで、相手からしたらどうしても放っておけない存在になるはずなんだ」
「わたしが……ですか? だって、まともにパスも受けられないんですよ?」
姫乃ちゃんは半信半疑だが、俺は昨日の体育でやった練習試合で、姫乃ちゃんがゴール下にいた時に、ディフェンスがかなり警戒していたのをしっかりと覚えていた。
「とりあえずひめのんにマークは付くかな。背が高い選手はやっぱり怖いし。で、それがどうなったら、『何もしない作戦』なんてことになるわけ?」
「だから相手の警戒心を利用するのさ。姫乃ちゃんはゴール下で何もしない。強いていうなら囮になる。できればパスを貰いたそうにアピールして欲しい」
「は、はぁ……」
姫乃ちゃんはよくわかってないようだったが、小春にはこれでもう俺の意図が伝わったようだった。
「そしたら味方へのディフェンスが緩くなるってことね。なるほどね、さすがユータ。考えたね。やるじゃん?」
「だろ? なぁ姫乃ちゃん。バスケの試合じゃボールは1つだけど、フィールドには全部で10人の選手がいる」
「そう、ですよね。はい、知っています」
「だがそのうち9人はボールを持っていないんだ。9/10がボールに関与していない。つまりオフ・ザ・ボールの動きこそがチームプレーの本質なんだよ」
さすがにちょっと言い過ぎではあると自覚しているんだが、こういうのは極論でビシッと断言する方がわかりやすいからな。
「囮をするのも、チームにとって大事な役目ということですね? ボールではなく、頭を使った駆け引きを相手チームにしかけると」
納得を示すように、姫乃ちゃんがうんうんとうなずいた。
基本的な考え方さえ理解すれば、頭のいい姫乃ちゃんなら後は早いだろう。
「そーゆーことだねっ」
「何よりうちのチームには小春がいる。小春は上手いからな。ワン・オン・ワンならまず負けない。小春がプレーしやすくなるように姫乃ちゃんがうまく囮になってくれれば、かなり攻撃が通りやすくなると思うんだ」
「作戦は理解できました。早速、わたしに囮の動き方を教えてください」
己の役割を理解した姫乃ちゃんが、猛烈なやる気を見せてきた――!




