第48話『何もしない作戦』
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次の日も体育があって、男女一緒に球技大会に向けてのバスケ練習をしたのだが。
俺は授業が始まって最初のストレッチの時間に、姫乃ちゃんに昨日俺が考えた作戦について話すことにした。
その作戦とは――。
「ズバリ『何もしない作戦』がいいと思う」
俺は姫乃ちゃんと向かい合って開脚前屈をしながら言った。
「うんしょ……うんしょ……えっと、何もしない作戦……ですか? ええっと、えっ……」
体操服姿で一生懸命、足を開いて身体を倒していた姫乃ちゃんが、動きを止めて困惑したように尋ねてくる。
姫乃ちゃんは身体も固いみたいなので、俺はその手をもって引っ張ってあげた。
姫乃ちゃんは目をつぶりながら「はうううううう~~伸びてます~~はぅぅん……」と可愛らしい声を上げる。
「ユータ? もしかしてふざけてるの? ひめのんがこんなに頑張ってるのに、アタシ怒るよ?」
しかし、いつもはじゃれ合いの延長で怒ったふりをしてくる小春が、珍しく本気で怒った顔を向けてきた。
ちなみに小春もすぐ俺の右隣で、俺たちの方を向いて開脚前屈をしていたのだが、こちらはおでこが体育館の床に着くくらいに柔らかかった。
うーむ、これはすごいな。
ちなみについでに胸も床に着いていた。
小春は大きいからな……。
それはそれとしてだ。
まぁさっきの話を普通に受け取ったら、そういう反応になるのもわかる。
これだけ聞いたら、ふざけてると思っても当然だ。
だがちょっと待って欲しいんだ。
「まぁまぁ聞いてくれって。こんな作戦だけど、ちゃんと真面目に考えたんだから」
「勇太くんですから、それはそうだとは思うんですが……」
「ほんとかなぁ?」
「それを今から説明するからさ」
イマイチ納得のいっていなさそうな二人をなだめると、俺は作戦に着いて詳しく話し始めた。
「まず大前提として、球技大会まであと9日しかないんだ」
「ですね」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「ぶっちゃけ、たった9日でボールを扱うを劇的に改善するのは不可能だ。姫乃ちゃんじゃなくても、俺だって無理だ。なにせたった9日しかないんだから」
小6の時に姫乃ちゃんの逆上がりの練習に付き合った時は、それこそ2カ月とか3カ月の期間があった。
地道に逆上がりの練習に取り組むことができたし、いろんなやり方を試して、姫乃ちゃんに合う練習方法を選ぶことも可能だった。
だけどたった9日じゃ、まともなやり方じゃどうしようもない。
「まぁそうですよね、はい……」
姫乃ちゃんが(´・ω・`)ショボーンとして、
「ユータ、それが答えとか本気でふざけてるの?」
小春は目じりを吊り上げる。
お前って、本当に姫乃ちゃんのことが好きだよな?
「いやいや、これは大前提なんだってば。それを踏まえたうえで、ここからが作戦の本題だ」
「よ、宜しくお願いします」
「一応、聞いてあげるけどね」
神妙な顔の姫乃ちゃんと、ちょっとご機嫌斜めの小春に俺は言った。
「何もしない作戦っていう通り、基本的に姫乃ちゃんはプレーをしない。その代わりに頭を使うんだ」




