第47話 なにせ俺は、好きな子に教室で水をぶっかけた男だぞ?
その日の帰り道。
「バスケットボールはすごく難しいです……いえ、正確にはバスケットボールに限らないんですけど……」
俺の隣を歩く姫乃ちゃんが物憂げにつぶやいた。
目もどこか虚ろな気がしなくもない。
「あはは、大丈夫だいじょうぶ。なんとかなるってー」
深刻に思い悩む姫乃ちゃんとは正反対で、小春は呑気に笑っている。
こういう時、小春のポジティブな性格はありがたいよな。
小春といれば会話の空気が重くなることは、基本的にない(ただしテストの話題は除く)。
「なんとかなるでしょうか……? 今日の体育の時間も、何をしても皆さんの足を引っ張ってしまったのが、もう辛くて辛くて……。これと同じことが試合でも起こるかと思うと、もう今から休みたくなってしまいます……」
悲しげに言いながら姫乃ちゃんがお腹を押さえた。
ストレスで胃が痛いのだろうか。
「もー、ひめのんは真面目なんだからー。ただの授業の一環なんだし。勝ったら嬉しいー♪ 負けてもアチャー残念! ってなもんでしょ?」
「それはそうなんですけどね……私の場合は勝ち負け以前の話と言いますか……」
なんとなく、姫乃ちゃんが言いたいことは分かった。
「多分だけど、姫乃ちゃんは勝ち負けがどうのこうのよりも、チームメイトに迷惑をかけたくないってことなんだよね?」
「はい、そういうことです」
俺の言葉に、姫乃ちゃんがしょんぼりとうなずいた。
本当に優しい子だなぁ、姫乃ちゃんは。
「だから大丈夫だってばー。こういう時は、いつもユータが上手いことややってくれるんだから。だから安心しなよひめのん。ねっ、そうだよねユータ?」
ここでさも当然のように、俺に打開策を出せと言ってくる小春。
正直、球技大会までもう10日しかないので、何ができるかはわからない。
無理難題と言っても過言じゃないだろう。
だがしかし、そんなことは関係ない!
俺は小春の言葉に強くうなずいた。
「ああ、もちろんだ! 任せとけっての!」
姫乃ちゃんのためなら、俺はどんな無理難題だってクリアしてみせる!
俺の目の前で、姫乃ちゃんに悲しい思いをさせはしない!
なにせ俺は、好きな子に教室で水をぶっかけた男だぞ?
「勇太くん……ありがとうございます!」
姫乃ちゃんがふわりと笑った。
すっかりいつもの姫乃ちゃんの優しい笑顔だった。
OK、まずはこの笑顔を取り戻したことが第一歩だ。
なんとしても本番でも姫乃ちゃんの笑顔を守り抜いてみせる!
守りたい、この笑顔!
「ね? 言ったでしょ? ユータはやる時はやる男の子なんだから」
「はい、改めてそう思いました」
俺の責任は極めて重大だった。
姫乃ちゃんの尊厳を守る。
そのために俺はこの日の夜、徹夜で考えに考え抜いて、ある結論を得た――。




