第40話 姫乃先生
準備は整い、教科書やノートを開いて、各々テスト勉強を始めたのだが、
「ねー、ユータ。これってどうやるんだっけ?」
数学の問題集を解いていた小春が、問題を指さしながら訪ねてきた。
「んーとだな。これとこれとこれを、この公式に当てはめるだけだな」
「答えだけ言われてもわかんないし。なんでこの公式が出てきたの?」
「だからそれは……だってここはこの公式を使うところじゃん」
感覚的に理解しているせいで、俺が上手く説明できないでいると、
「小春ちゃん、そこはですね。まず──」
姫乃ちゃんが席を立つと小春の斜め後ろに行って、俺の後を引き取って、分かりやすく説明してくれた。
「なーる! さすがひめのん、わかりやすーい!」
「俺もすごく納得した。なるほどな、さすが姫乃ちゃんだ」
「いえいえ、どういたしまいて」
姫乃ちゃんの説明にうんうんと頷く小春と俺だった。
またしばらくすると、今度は俺が小春に尋ねた。
「なぁ小春。これって、どうやって訳すんだっけ?」
聞きながら英語の問題集の、日本語訳の問題を指さす。
「え、どれ? え、これ? これはそのまま訳すだけでしょ?」
「おまっ、そんな教え方があるかよぉ」
さすがにひど過ぎる。
泣くぞ?
「勇太くん。これは第5文型なので文章をこうやって分解すれば――」
するとまたまた姫乃ちゃんが席を立つと、俺の斜め後ろにやってきて、わかりやすく解説してくれた。
俺の肩に乗せられた手がすごく頼もしかった。
「ふんふん、なるほど、そういうことか。サンキュー姫乃ちゃん」
「ひめのん、すごくわかりやすいよー!」
「いえいえ、どういたしまして」
姫乃ちゃんがにっこりと笑った。
その後も同じように、俺や小春の質問を姫乃ちゃんが完璧に答えると言う繰り返しが続き。
「なぁ小春? 俺、思ったことがあるんだけどさ」
キリのいいところで休憩となってすぐに、俺は小春に言った。
「奇遇だねユータ。アタシも思ったことがあるの」
「姫乃ちゃんと俺たちって多分、上澄みとそれ以外だよな」
「うんうん。ひめのんが成績トップクラスで、アタシたちはその他大勢って感じだよね」
俺は学力の差を如実に感じていた。
俺も小春も全然できないって程ではないと思うし、普通にやれば赤点は取らないとは思うんだが、姫乃ちゃんの授業内容への理解度は明らかに俺たちより高い。
「そ、そうですか? そんなことないと思いますけど」
姫乃ちゃんはいつものように謙遜するが、彼我の戦力差さは歴然だ。
「ううん、そんなことありまくりだしー」
「だよな。これからは敬意を込めて姫乃先生と呼ばせてもらうよ」
「「よろしくお願いします姫乃先生!」」
「も、もう、やめてくださいよ。先生は禁止です」
俺と小春に誉めちぎられて、姫乃ちゃんはは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、肩を縮こまらせたのだった。
そして休憩後さらにもう少し勉強すると、下校時間が近づいてきて、誰からともなくなんとなく駄弁りタイムへと突入する。




