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第39話 初恋×今恋 図書室の戦い

「へー。うちの高校の図書室って、思ってたより大きいんだね」

 中に入って早々、小春がキョロキョロしながら言った。


「机もたくさんあります。本を借りるよりも、自習が目的でしょうか? ……利用者はいませんけど」


「最近は図書室に来なくても、スマホがあれば本は読めるもんなぁ。そもそも本以外に娯楽はいくらでもあるし」


 そんな会話をついしてしまうくらいに、図書室の中には人気がなかった。


 入り口脇にある貸し出しカウンターで、スマホでWeb小説らしきものを熱心に読みふけっている図書委員がいるだけで、実質、俺たちの貸し切り状態だ。


「それにしたって、人がいなさすぎじゃない? 最近の若者は嘆かわしいねー」


 自分だって最近の若者だし、そもそも図書室の存在なんてほとんど忘れていたくせに、好き放題言う小春である。

 俺も人のことは言えないけど。


「テスト直前はいっぱいになるという話みたいなので、まだ少し時期が早いのではないかと」


「テスト直前でもなけりゃ、一日の授業を終えて心晴れやかな放課後に、誰が好き好んで学校の図書室に向かうのかって話だよな」


「だよね。よほどの本好きだけだよねー」

「そのおかげと言ってはなんですが、少しくらい声が大きくなっても問題なさそうです」

「近くの席に人がいたら、会話した時点でアウトだもんな」


 そういう意味ではガラガラなのはとてもありがたい。


「席はどうしよっか? 今ならどこでも座り放題だよ?」

「図書委員が入り口のカウンターにいたから、読書の邪魔をしないようになるべく遠い奥の方の席がいいんじゃないか? 離れていたら声も聞こえないだろうし」

「私もそれがいいと思います」


「じゃあ奥の角の席でいいかな?」

「決まりだな」

「では行きましょう」


 俺たちは一番奥の角の4人席に向かうと、まず俺が腰かけた。

 しかし2人は立ったままでいる。


「アタシ、ユータの隣がいいな」

「私も勇太くんの隣がいいです」


「ふーん」

「はい」


 穏やかな春の静かな図書館に、鋭い緊張感が走った気がした。

 お昼ご飯を食べる中庭が大きな机と長椅子なのに対して、図書室の机とイスは1人サイズに区切られている。

 お昼ご飯の時のように少しずれて座ることができない。


 ゆえに争いが生まれるのだ。


「ひめのん、やろうか?」

 小春が右手をスッと胸の前に上げた。


「1回勝負でお願いします」

 同じように姫乃ちゃんも、右手を胸の前に持ってくる。


 まるで武闘家が拳で語り合おうとするかのようだ。

 しかしその意味するところは──、


「出さなきゃ負けよ、最初はグー! ジャンケンポン!」

 小春と姫乃ちゃんがじゃんけんをした。


 2人の右手が同じタイミングで振り下ろされる。

 結果やいかに――!?


 小春はパーを出し、姫乃ちゃんはグーを出していた。


「やった、アタシの勝ちー」

「負けました……」


 勝った小春が満面の笑みで俺の隣に、姫乃ちゃんが少し残念そうに俺の正面に座った。



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