第34話 スイーツトーク♡
「で、お得なスイーツコーナーはどこにあるんだ?」
俺は店内をキョロキョロと見渡した。
なにせ初めて入るスーパーだ。
どこに何があるかさっぱりわからない。
それは小春や姫乃ちゃんも同じようで、俺たちは邪魔にならないように入り口の脇に寄って立ち止まると、作戦会議を始めた。
「特売コーナーって言ってたから大きな冷凍ケースじゃない? ほら、よく金魚すくいの大きな水槽みたいなのがあるよね?」
小春が両手で、空中に大きな四角形を描いた。
「ああ、あるある。あれな」
「でしたら、あれはどうでしょう?」
姫乃ちゃんが、入り口から少し奥にあるエリアを指差した。
入り口からだと商品棚に少し隠れてしまうそのエリアには、小春のいう「金魚すくいの大きな水槽みたいな」のが見え隠れしていた。
「あ、ぽいぽい。さすがひめのん。視力2.0は伊達じゃないねー」
「えっと、私は普通に両目1.0ですけど……」
「姫乃ちゃん。小春はいつも適当にしゃべってるから、意味不明なところは聞き流しておけばいいよ」
困惑しながらも真面目に返事をした姫乃ちゃんに、俺は極めて的確なアドバイスを送った。
「わっ、ユータひどーい。ひめのん、ユータはひどいこと言うから、ユータの言うことなんて聞いちゃだめだよ?」
「ええっと、その……えっと……」
姫乃ちゃんが困り顔で、俺と小春の顔を交互に見る。
「小春。姫乃ちゃんが困ってるよ」
「それは最初にユータがひどいこと言ったからですー」
「俺のせいかよ」
「んー、半分くらいは? そんなことより、ほら、行こうよ♪」
小春は笑顔で言うと俺の返事も待たずに、自然と俺の手を取って歩き始めた。
「ぁ……」
それを見た姫乃ちゃんが、捨てられた子犬のようななんとも悲しそうな顔をしたのが見える。
独りぼっちは寂しいもんな。
俺はほとんど無意識のうちに、小春と手を繋いでいない方の手で姫乃ちゃんの手を取っていた。
「姫乃ちゃんも行こうぜ」
「はい♪」
通学鞄がかなり邪魔だったけど、姫乃ちゃんが嬉しそうな顔をしたので気にしない。
2人で一つの鞄を一緒に持つようにして、俺と姫乃ちゃんは手を取り合う。
「ごめん、なんか鞄がちょっと邪魔だよな」
「いえ、お構いなく」
そうして小春に手を引かれた俺は、反対の手で姫乃ちゃんの手を引きながら店内を歩いていった。
幸いまだ夕方の買い物のピークタイム前で、店内が空いていたこともあり、誰かに迷惑をかけることはなかった。
「ふんふーん」
「ご機嫌だな」
「なにせユータの奢りだからねー」
小春の声はウキウキと弾んでいる。
「なんだかんだで小春には世話になってるからな。たまにはお返しくらいするさ。むしろいい機会だ」
「うんうん、いい心がけだね。じゃあ2個おごりってことで」
「それはない」
「へー? そういうこと言うなら、もう明日から起こしてあげないんですけどー?」
「言っとくけど、俺は頼んでないからな?」
「とか何とか言ってまんざらでもないくせにー」
「うるせー」
「否定しないところがユータのいいところだよねー。素直系男子」
などと小春と幼馴染な軽口をたたき合っている間に、俺たちは「金魚すくいの大きな水槽みたいな」冷蔵ケースの前へとやってきた。




