第33話 放課後スイーツトーク?(甘いけど甘くない・・・)
こうして楽しく充実してスタートした高校生活。
そんなある日の放課後。
帰りのホームルームが終わると教室が一気にざわめきに包まれ、
「ユータ、帰ろー」
「勇太くん、帰りましょう」
今日も今日とて左の席からは小春が、右の席からは姫乃ちゃんが声をかけてきた。
「よし、帰るか」
3人連れ立って教室を出て、学校を出て、帰りの通学路を歩いていく。
他愛もない話をしていると小春が言った。
「ユータ、ひめのん。帰りに駅前のスーパー寄ろうよ?」
「スーパー? いいけど、小春のお母さんから買い物でも頼まれたのか? 荷物持ちなら引き受けるぞ」
「私も放課後は時間があるので大丈夫ですよ。晩御飯の食材でしょうか?」
高校最寄り駅の駅前には大手チェーン系列の、しかし小ぢんまりとした地元民向けのスーパーがあった。
「うーうん。スイーツが98円均一セールしてるって、みーちゃんが言ってたから気になっちゃって」
みーちゃんとはクラスメイトの女子で、白河美嘉のあだ名だ。
俺は話したことはないが、小春や姫乃ちゃんとは仲がいいようだった。
体育の時などによく一緒にいるの見かけた。
「小春は甘いものが好きだもんなぁ。ほどほどにしとかないと太るぞ?」
「はぁ? 太りませんー! っていうか! 甘いものが嫌いな女の子なんていませんー! ねー、ひめのん?」
「えっと、その、私も興味があります。スイーツだとタルトが結構好きでして」
「あー、わかる。姫乃ちゃんにタルトはすごく絵になるよな」
「そうですか?」
「なるなる。レオナルドのダビンチさんが『タルトを食べる少女』ってタイトルで絵を描いていてもおかしくないくらいだよ」
「ふふっ、さすがにそれは言い過ぎですよ」
「そうかな?」
「はい、そうです」
謙遜するなんて姫乃ちゃんは奥ゆかしいなぁ、などと思っていると、
「ねぇユータ? アタシとひめのんで反応が露骨に違いやしませんか?」
小春が不満げな顔で問いただしてきた。
「いやいや、違うっての」
「なにが違うのさ?」
「あくまで姫乃ちゃんがタルトを食べるのは絵になるだろって、話だから。想像してみろよ? な、似合うだろ?」
「まぁ、たしかに? ひめのんのお嬢様っぽい雰囲気に、タルトはよく似合うよね」
「だろ?」
「それは納得かな。ちなみにアタシにはどんなスイーツが似合いそう?」
「……ろ、ロピアのプリンアラモードとか?」
「それは単にアタシの好物でしょ! 完全に適当言ったでしょ」
「だって急に言われても、そんなすぐには思い浮かばないっての」
「ひめのんのことは、すぐに思いついたのにアタシのことは思いつかないんだ……」
俺としてはいつも通りの幼馴染みなやり取りをしたはずなのに、なぜか小春がいじけてしまった。
小声で何か言いながら、小春は露骨にそっぽを向いてしまう。
なにが気に障ったか知らんが、まったくもう子供っぽい奴だなぁ。
しゃーない。
ここは俺が折れてやろう。
「ごめんって。好きなの1個おごってやるから機嫌を直してくれ。な?」
「え、ほんと?」
俺を見た小春は満面の笑みを浮かべていた。
現金な幼馴染みである。
「マジマジ」
「やりぃ♪ この物価高の時代に98円セールをしてくれてるスーパーに感謝だね♪」
「いやいや、スーパーじゃなくて俺に感謝しろってーの」
「ユータにももちろん感謝してまーす。ありがとねユータ。大好き♪」
「98円で大好きになってくれるとか、安い女の子だなぁ」
「えへー♡」
俺は小春の露骨なゴマすりを笑って流したのだが、姫乃ちゃんが目を見開いているのが俺の視界に入った。
もしかして今の「大好き♪」に変な勘違いをしてたりする?
今のは幼馴染みの会話だから、今日は天気がいいねと同じくらいに、特に深い意味はないんだぞ?
という説明をしようかしまいか迷っている間にスーパーについてしまい、俺は説明はまぁいいかと思って、お店の中に足を踏み入れたのだった。




