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第30話 初恋 × カラオケ × 今恋

「天災的なアイドル様!」


 天災級にぶっ飛んだアイドルが芸能界で無双する人気アニメのOPを、小春が熱唱する。


 そのフォームはアグレッシブなスタンディング・スタイル。

 丹田で練り上げられて生み出される声は力強く情熱的だが、小春の甘ったるいアニメ声と絶妙にマッチしていて、耳に心地いいことこの上なかった。


 歌い終わった小春に、俺と姫乃ちゃんは盛大な拍手を送った。


「小春は相変わらずの歌うまだなぁ。何回聞いても飽きないよ」

「はい、すごく上手でした」


「まぁねー。昔から歌うのは得意だから。はい、ユータ」

 褒め褒めされてまんざらでもなさそうな小春が、2番目に曲を入れていた俺に、マイクを手渡してきた。


 マイクを受け取った俺は、適当な曲を可もなく不可もなくな感じで歌う。

 それでも、


「ユータいいじゃーん。いぇーい♪ ほらほらひめのんも、いぇーい♪」

「えと、あの……い、いぇーい!」


 小春がノリノリでタンバリンをシャンシャンシャラシャラ鳴らしながら、姫乃ちゃんと一緒に合いの手を入れてくれたり。


「こうやって勇太くんの歌を聴くのは初めてです。優しくて素敵な声ですね。ずっと聞いていられます」

「わわっ、ひめのんってば泣いちゃってるじゃん。でもでも、これからはいつでも聞けるんだよ」


 小学校の音楽の合唱くらいでしか一緒に歌を歌う機会がなかった姫乃ちゃんが、えらく感激してくれたみたいで目にうっすらと涙を浮かべていたりと。


 2人は盛大に盛り上げてくれたのだった。


 そして3番手に歌うのはもちろん姫乃ちゃんだ。


「アリのままで~、キリギリスに乗って~」

 誰もが知る有名映画のテーマ曲を、情感たっぷりにしっとりと歌い上げる姫乃ちゃん。


 姫乃ちゃんがソロで歌う姿を初めて見たってのもあったんだけど、なによりも心に訴えかけてくるような心のこもった歌声に、俺は完全に引き込まれてしまい、時がたつのも忘れて、気が付いた時には姫乃ちゃんはもう歌い終わっていた。


「ひめのん、すごーい! 超すごーい!」

「マジですごかったよ。ただただすごかった。マジヤバい。ヤバすぎた」


 姫乃ちゃんの圧倒的なパフォーマンスの前に、小春も俺も語彙力を完全に失ってしまう。


「もう、2人とも褒め過ぎですよ」


「ぜんぜん褒めすぎじゃないってー。もうこれプロだよプロ! プロフェッショナル!」

「だよな、むしろ褒め足りないくらいだっての。マジのガチで上手いと思ったもん」


 小春も素人とは思えないくらいに歌が上手いが、姫乃ちゃんは完全にそういう域を超えていた。


「ええっと、実はですね。この歌は小さい頃から大好きで何度も繰り返し聞いて、よく歌ってもいたんです。なのでこの曲だけに限っては、けっこう上手に歌えるようになっちゃったと言いますか」


「ふーん、そうなんだね」

「好きこそものの上手なれ、って感じか?」


「はい。なので他はもうぜんぜん普通で、あまり期待すると肩透かしになってしまうかなぁと……」


 姫乃ちゃんの表情には褒められた嬉しさの他に、わずかに申し訳なさのようなものが垣間見えた。

 どうやら謙遜とかではなく本当のことっぽい。


「なるほどねー。でもこの曲は間違いなくプロ並みだよねー。あ、次アタシの番。さてとー、これを見せられたら、アタシも本気を出さないとだよね」


 小春がすっくと立ちあがった。

 またもやスタンディングで歌うようだ。


「小春は熱唱系だからいつでも本気だろ?」

 そもそも小春は、どんなことでも手を抜くのが嫌いな性格だ。


「そうともゆー。あとこれ、はい。ユータのマイク」

 小春がにへらーと笑いながら、もう1本のマイクを俺に差し出してきた。

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