第3話 俺が幼馴染に〇〇〇〇を握られちゃった話。
4月初旬、高校の入学式の日。
チュンチュン、チュンチュン。
スズメたちの元気な声が朝の到来を告げてくる。
それを夢うつつに聞いていると、
「ユータ、起っきろー! 朝だぞー!」
明るく元気な声とともに、掛け布団が勢いよくひっぺがされて、
ボスン!
いまだ夢の世界に浸っていた俺の腰の上に何かが乗った。
何かというか「誰か」だ。
下腹部のあたりに柔らかさと適度な重量感を覚えながら、俺の意識は懐かしさを覚える夢の世界から、現実世界へと強制送還された。
「うぐ、重い……」
うめくように呟きながらゆっくりと目を開けると、女の子が俺の腰の辺りに、馬にまたがるようにして座っていた。
真新しいブレザー制服に身を包んでいる美少女だ。
チェック柄の短いスカート&両ひざを立てていることもあり、太ももの付け根がかなりあられもないことになってしまっている。
小さなリボンのワンポイントが可愛らしい、薄い水色の布に思わず目を奪われそうになりかけたところで、
「重いって言った!? こーら、ユータ! それが起こしに来てあげた可愛い幼馴染みに言う言葉かー! そういうヤツにはこーだぞー!」
女の子は俺の腰にまたがったまま、グリグリと腰を動かして体重をかけてきた。
グリグリ、グリグリ。
大きくて柔らかいお尻が、俺の下腹部を執拗に圧迫する。
男子特有のモーニング・スタンダップ現象が発生していた俺の下半身に、イケナイ刺激が襲ってきた。
「ちょ、だめだってっ!?」
俺は慌てて上体を半ばまで起こした。
「あはは、起きたみたいだねー」
俺の腰にまたがりながらにっこりと笑ったのは、小鳥遊小春。
小学校6年生の時に俺がここに転校してきて以来の幼馴染みだ。
家がお隣さんで同い年ってことですぐに仲良くなって、なんと小学校6年生から中学の3年間にかけてずっと同じクラス。
さらには今日から通う高校まで同じときた、大の仲良しさんだった。
「おはよう小春。今日も朝から元気だな」
「おはようユータ。ユータは今日も朝からお寝坊さんだねー」
俺にまたがったままの体勢で、小春がにへらーと笑った。
「言っておくけど、俺は寝坊してないからな? 毎度毎度、目覚ましの鳴る直前に小春が起こしに来てるんだからな?」
「そーともゆー」
「そうとしか言わないっての。まあその、起こしに来てくれるのは、嬉しいけどさ」
幼馴染みの贔屓ではないが、小春はとても可愛い。
童顔で背は低いのに、アンバランスなほどに大きく育った胸とお尻。
子犬が懐いてくるような無防備で可愛い笑顔は、もはや女神のごとし。
肩の下くらいまであるふわふわで柔らかい髪はチャーミングで、片側だけ小さめに作ったサイドポニーには、今日は赤いシュシュが巻かれている。
数日前の小春の誕生日に、俺がプレゼントしたものだ。
俺の視線に気付いたのか、
「えへへ、可愛いでしょ?」
小春がサイドポニーを触りながらにへらーと笑った。
「俺が選んだからな。さすが俺だよな」
「違いますー。アタシが可愛いからですー」
「自分で可愛いとか言うなよな」
「だってアタシもてるし? だから客観的事実? 的な?」
「否定はしない」
出会った時から可愛かった小春は、中学に入るとどんどんと可愛さを増していった。
なので同級生・先輩・後輩問わず、数多くの男子から告白されてきたのだ。
そしてその全てを断ってきた自他ともに認めるモテ女王だった。
あまりにたくさん告白を断ってきたので、男子の間では撃墜王ならぬ撃墜女王と呼ばれていたのはここだけの話だ。
「でしょ?でしょ っていうか、ユータのファッションセンスはぜんぜんだしー。レザーの指抜きグローブとかさ」
「うるせ。冬場にスマホを使う時は、指先が空いてると便利なんだぞ」
「夏にも着けてたじゃん。でもあれ? 最近してるの見ないよね?」
「それが、夏に付けてたら汗が原因でカビちゃってさ……」
「ぷっ! 夏に手袋なんかするからでしょー」
「いい勉強になったよ」
結構高かったのになぁ。
「でもでもこのシュシュはすっごく素敵だよ。ちょっと見直したもん。ありがとねユータ」
「もう何度も聞いたっての」
「嬉しかったから、何度だって言うしー」
「気に入ってくれたみたいで、俺も嬉しいよ」
「うん、えへへ……大事にするね」
小春がまたまたにへらーと笑ったところで、
ピピピピピピピピ――!
目覚まし時計が軽快な音ともに、本来予定されていた起床の時間を教えてくれる。
「そろそろ起きるからどいてくれないか?」
小春はうなずくと、立ち上がろうとしたところで、身体を止めた。
「どうした?」
「なんかね、硬いのがお尻に当たってるんだけど、なにこれ?」
小春が「なんかね、硬いの」を無造作に掴んだ。
「あひぁぁん!?」
情けない声とともにビクリと跳ねる俺の身体。
その反応で全てを察したのだろう。
「~~~~~~っ!!!!!! なに朝っぱらからおっ立ててんのよぉ! ああもう握っちゃったし! なんか生温かかったし! もうユータのえっち! サイテー!」
小春は大声で叫びながら俺をベッドに突き飛ばすと、脱兎のごとく部屋を走り出ていった。
「今のは俺、別に悪くなくね?」
思わず漏れ出た俺の言葉は、しかし誰にも聞かれることはなかった。