第29話 帰り道
楽しいお弁当タイムを終えると午後の授業が始まる。
左に小春、右に姫乃ちゃんに挟まれながら真面目に授業を受け、迎えた放課後。
「ねーねー、この後3人でカラオケいかない? 親交を深めるために」
帰り支度を始めた俺と姫乃ちゃんに、小春がそう提案してきた。
「俺はいいけど、姫乃ちゃんはどう?」
「今日は空いているので、ぜひご一緒したいです」
というわけで3人で放課後カラオケに行くことになった。
高校の最寄り駅の一駅隣にでかいターミナル駅があって、駅前もそれなりの商業地域になっている。
目指すはそこにあるカラオケチェーン店だ。
帰り支度をして教室を出て、昇降口を抜けて、朝来た通学路を引き返していく。
俺を真ん中に、左に小春、右に姫乃ちゃんというポジションも朝と同じだ。
帰りの話題の主役はやはりというか、初めての高校の授業についてだ。
「初日から疲れたー」
小春が一日スキーをした後にホテルの露天風呂に浸かった時のような、解放感あふれる顔で言った。
「俺も。しかも思った以上に宿題が多いしさ。それに加えて予習もしないといけないわけだろ?」
「授業はどれも密度が濃かったですよね。授業のスピードも速くて、少しも気を抜けませんでした」
「これが週に5回もあるとかヤバくない?」
「ヤバいよなぁ」
「ヤバいですよね」
「もう既にゴールデンウイークが待ち遠しいんだけど」
「右に同じ」
「とりあえず連休まではなんとか頑張らないとですね」
中学までが天国に見えるくらいに、高校生ってのは大変そうだった。
「でもその分だけ、放課後の解放感はハンパないよねー」
「それは間違いないな」
「右に同じです」
そんな取り留めのない話をしながら駅に着き、そのまま改札を通ろうとしたのだが。
「あれ……? 隣駅までの切符は買わないんですか? 私は定期券が使えますけど、2人は反対方向ですよね?」
改札で定期券をピタッとしようとした俺と小春に、姫乃ちゃんが不思議そうに言った。
「ふふん、それがなんと俺たち、隣駅までの定期券を持っているんだよなぁ」
「地元の駅からだと、もう1駅先まで行っても定期代は同じなんだよねー」
「なるほど、そういうことでしたか」
「あそこまでタダで行けるのはめっちゃ助かるよねー」
「この辺りじゃ一番栄えてる駅だからなぁ。近場で遊ぶならとりま第一候補だし」
「そういうわけだから、電車代がかかるとかは心配しなくていいよー」
「ちょっとしたことも気にかけてくれるなんて、さすが姫乃ちゃんは優しいなぁ」
「ええと、実はその。気にかけたということではなくて、純粋に『あれ?』って疑問に思っただけなんです。なんていうかその……勘違いさせてしまってごめんなさい」
姫乃ちゃんが申し訳なさそうに肩をすくめた。
「あ、そう……いや、気にしないで」
さすが姫乃ちゃん、とても正直だった。
なんてやり取りをしつつ、俺たちは電車に乗り、隣駅で降りて、カラオケチェーン店に入った。
電車の中でアプリ予約をしておいたので、待ち時間はもちろんゼロだ。
ドリンクバーで飲み物を用意すると、まずは一番手として小春が歌い始めた。




