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第26話「2人きりの世界でぇ~、とっても楽しそうだねぇ~~?」

 俺がまず適当な席に座ると、2人は一瞬迷ったような素振りを見せた後、俺の向かいに並んで座った。


 俺の正面にどちらかが座るのではなく、2人が微妙に正面からずれた位置で、俺と向かい合う。

 阿吽(あうん)の呼吸というか、まるで暗黙の了解でもあるのかと思うくらいに等距離だった。


 2人が俺の分のお弁当を手渡してくれる。

 やや小さめのお弁当箱だ。

 これまた2人が作ってくれたお弁当を合わせたら、ちょうど男子一人分になるような絶妙な量だった。


「2つ合わせたらちょうど良さそうな量だな」

 俺が何気なくつぶやくと、


「なんかそんな気がしたんだよねー」

「ふふっ、私もです」


 小春と姫乃ちゃんが顔を見合わせて笑った。


 おっと、そういや大事なことを言い忘れていた。


「お弁当を作ってきてくれてありがとう。すごく嬉しいよ。それと先に渡しておくな」

 俺は感謝の言葉とともに、2人の前に300円ずつ置いた。


「なにこれ? 手間賃?」

「作りたくて作ってきたんですから、お金なんて貰えませんよ」

「そうそう」


 2人は遠慮するものの。


「これは俺が母さんから貰った今日の昼飯代なんだ。2人がお昼を用意してくれたんなら、これは渡しておかないと筋が通らない。手間もそうだし材料費だってかかるだろうし、2人のご両親だっていい顔はしないだろ? だからこれは貰ってくれないと俺が困る。すごく困る」


 昨今の物価高だ。

 お弁当代だって馬鹿にはならない。


「あはっ、ユータって変なところで義理堅いよねー。でもそうゆーことなら貰っとくね」

「分かりました。これは材料代として、ちゃんと母に渡しておきます」


「そうしてくれると助かるよ。じゃあ食べようか。さっきからずっとお腹ペコペコで背中とくっついちゃいそうなんだ」


 言葉にしたせいで空腹を意識してしまったからか、お腹がぐ~~!と盛大に鳴った。


「あははー、ユータのお腹いい音したねー」

「ふふっ、盛大に鳴っちゃいましたね」


「育ち盛りの男子高校生に、朝から4時間の授業は長すぎると思うんだよなぁ」


 今や俺は飢えた狼である――!


 というわけで俺は2つの弁当箱を開くと、早速食べ始めた。


 どちらのお弁当から食べようかと考えていた俺は、しかし姫乃ちゃんのお弁当箱のタコさんウインナーを見て、まずはこれを食べることにした。


「懐かしいな。遠足の時に食べたのを思い出したよ」

「覚えていてくれたんですね」


「そりゃ覚えているさ。家族以外が作った料理を食べたのは、初めてだったから」


 それが初恋の女の子の手作りともなれば、忘れるはずがない。

 もちろんそれ以前にも、料理実習と飯盒炊爨(はんごうすいさん)はあったけれど、さすがにそれはノーカウントだろう。


「勇太くんのお弁当の玉子焼きと交換したんですよね。甘くて美味しかったです」

「母さんが婆ちゃんから教えてもらった秘伝の玉子焼きだからな」


「そうだったんですね。どうりで美味しいはずです」

「姫乃ちゃんが褒めてくれたって母さんに伝えたら喜んでたよ」


「え、お母さんに言ったんですか?」

「そりゃ言うだろ? 褒めてくれたんだしさ」


「感想が勇太くんのお母さんに伝わるのは、なんだか恥ずかしいです」

「まぁまぁ、言っても昔の話だから。でも懐かしいなぁ。もう4年も前なのか」

「はい、懐かしいですね」


 なんて過去バナで盛り上がっていると、


「2人きりの世界でぇ~、とっても楽しそうだねぇ~~?」


 おどろおどろしい声とともに小春の顔がにゅうっと、俺と姫乃ちゃんの間を遮るように割って入ってきた。

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