第18話「んー、眠いから? えへへ、わかんなーい……」
家が隣の幼馴染ってこともあって、俺は小春の寝ぼけた時の声を何度も耳にしたことがあった。
そもそもお互いの家でお泊まり会をしたこともある仲なのだ。
言ってみれば俺は小春ソムリエ。
カラオケはスタンディングじゃないと上手く歌えないとか。
太ももの内側の付け根に小さなほくろがあるとか。
左手を使うと頭が良くなるとどこかで聞いて以来、歯を磨くときに利き手じゃない左手を使っているとか。
お姉さんぶって世話を焼きたがるくせに、実はかなりの甘えたがりだとか。
バックハグだのマフラー共有だの、ドラマの胸キュンシーンをすぐ真似してやりたがるとか。
小春のことなら俺は大抵のことは知っていると自負していた。
そして小春は――普段は元気がいいことに隠れて分かりにくいんだけど――実はアニメ声って言うのかな? けっこう甘ったるくて蕩けるようなとても可愛らしい声をしているのだ。
寝ぼけている時は元気の良さが消えるせいで、それが如実に出るんだよなぁ(小春検定1級)。
むにゅむにゅ、むにゅむにゅ。
「ぁ……っ」
……。
…………え?
この声って……………………まさかリアル小春!?!?
一瞬にして脳が完全覚醒した俺は、左手を動かすのを止めた。
よく聞くと、俺の左脇のあたりからすーすーと小さな寝息が聞こえてくる。
この可愛らしい寝息にも聞き覚えがあった。
俺が右手で掛け布団の左端を恐るおそる持ち上げると、俺の左腕に抱かれるような体勢で、小春が幸せそうな顔で眠っていた。
な、なんで!?
昨日は何年かぶりのお泊まり会じゃなかったよな!?
危うく叫びそうになったのを、俺は必死に堪えた。
しかも小春はただ寝ていただけではなかった。
あられもない姿で寝ていたのだ。
具体的に言うと制服のブレザーを脱いで、ブラウスだけの姿だった。
しかも胸元のボタンが3つ外れてはだけており、偶然にも俺の左手がその中へと差し込まれていたのだ!
しかも俺の左手ときたら、ブラウスの中に入り込んだだけでは飽き足らず、ブラジャーの中にまで侵入してしまっていた。
俺は慌てて、小春の胸元から手を引き抜こうとしたのだが。
な、なんということだろうか!
そのタイミングで小春がパチッと目を見開いたのだ!
とっさに動きを止める俺。
もちろん俺の左手はまだ小春の胸にダイレクトタッチしたままである。
俺の腕の中の小春と目が合う。
とりま、朝の挨拶を……。
「こ、小春……おはよう」
「あ、ユータだ……おはよー……」
甘ったるいアニメ声を返してくる小春。
完全に寝ぼけている様子だ。
「な、なんで俺のベッドに小春がいるんだ?」
「んー、眠いから? えへへ、わかんなーい……」
小春は甘ったるい声と舌っ足らずなしゃべり方で答えてくる。
それはもう本当に可愛いらしかったのだが、今はそれどころではなかった。
何がって、そんなのもちろん小春の胸を触っちゃってる俺の左手に決まってるだろう!?
ヤバい、マジヤバい。
寝ぼけていたので誓って故意ではなかったのだが、大きくてやわやわでむにゅむにゅな感触を堪能してしまったのもまた事実……!
小春が気付く前に、なんとか左手を胸元から引き抜かなければ……!
「そ、そっか。春の朝は眠くなるよな。春眠、暁を覚えずっていうし?」
なんて言いながら、俺はゆっくりと小春の胸から手を引き抜こうとして――小春が俺の目を見ていた。
さっきまでとろんと寝ぼけていた小春の目はしかし、今は既に理性の光を帯びており、その顔には次第に赤みが増していっていた。
察するに、状況を理解したようだった。
こちらも表現マイルド版です。
より詳細な描写をお楽しみになりたい場合は、ぜひカクヨムにてお楽しみください。
第18話「んー、眠いから? えへへ、わかんなーい……」
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