第17話 寝ぼけて「もにゅもにゅ」してしまった件
入学式の翌日。
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピピピピピピピピピピピピピピピ――!
久方ぶりに聞く無機質な目覚ましの音に起こされた俺は、しかし寝起きのボーっとした頭で、半ば本能でベッド脇のミニテープルに右手を伸ばして目覚ましを停止させた。
目覚ましを止めるために布団から出した右手がとても寒かったので、すぐに布団の中へと引っ込める。
逆に布団の中はいつもよりもぬくぬくで、俺はその温もりに言いようの幸せを感じていた。
目覚ましによって強制的に覚醒しかけた意識が、再びうだうだとし始め、俺はぬるま湯のような温もりに抱かれながらまどろんでいく。
「ふぁぁ……ぁ。今日は小春は起こしにきてくれなかったのか……むにゃ……だめだ、起きたくないよぉ……」
ここ2年ほど、学校がある日はいつも必ず小春が起こしに来てくれていた。
目覚ましの鳴る直前に、
「ユータ、おっきろー」
元気のいい朝の挨拶とともに、掛け布団を盛大にひっぺがされるのが俺の毎朝のルーティーンだったので、それがなかったことに喪失感のような物寂しさを覚えてしまう。
そうは言っても、俺たちも高校生だもんな。
いつまでも小春に起こしてもらうわけにはいかないか。
(俺から頼んだわけではないが、起こしてもらっていたのは事実だし、毎朝、小春の顔を見て1日が始まるのは幸せでしかなかったわけで)
それにしても今日は一段と布団の中が心地いいなぁ。
おかげで起きる気力がどんどんと低下していくよ。
早めに目覚ましをかけているから、あと10分ほどはベッドの中でうだうだしていられるんだけど、今日から授業が始まるから万が一にも2度寝だけはしてはいけない。
授業初日から遅刻してくるような社会性に欠けたヤツと、進んで友だちになりたい人間はそう多くはないだろう。
だからリスク回避のためにもここで起きないとダメなんだけど、俺の軟弱な心に巣くう睡眠の悪魔が、
『もうちょい怠惰を貪っても大丈夫だろ? 10分早めに目覚ましをかけたってことは、まだ10分寝ても問題ないってことだ』
執拗に俺を誘惑し続けてくるのだ。
俺はまだまだ眠気の残る頭で、俺を堕落せしめんとする弱い心と葛藤を続けていたのだが――、
「……?」
俺はベッドの左サイドに、なにやら湯たんぽのようなしっとりとした温もりを持った「何か」が入り込んでいることに、ふと気が付いた。
湯たんぽのような温もりというか、人肌の温もりというか?
肩の高さくらいに上がった俺の左腕の下。
俺の左半身に密着するように、優しい温もりを持った何かがあった。
「なんだろ……?」
左手の平が、なにやらマシュマロのように柔らかくてメロンのように大きなものに触れている。
俺は特に意識はしないまま、なんとなく左手の指をワキワキと動かしてみた。
もにゅもにゅ、もにゅもにゅ。
柔らかくも張りのある弾力が返ってくるとともに、
「ぁん……っ」
なにやら声のような、吐息のようなものが聞こえた気がした。
それが何なのかは、今の俺は寝ぼけていたのでよく分からなかった。
でもあれ?
聞こえてくるのって、なんか小春の声に似ているような気がするぞ……?
このエピソードは小説家になろう用に、カクヨム版から大幅な修正をしています。
修正前を読まれたい方は、大変お手数ですがカクヨムの第17話をお読みください。
https://kakuyomu.jp/works/16818093093149975767/episodes/16818093093784703267




