第15話 初恋モノローグ
◇初恋モノローグ◇ ~二宮姫乃~
高校の入学式の日の夜。
明日の授業の用意をバッチリ済ませた私は、自室のベッドの上でペタンと女の子座りをしながら、今日という日をしみじみと振り返っていた。
黒地にデフォルメされた白猫が散りばめられたお気に入りのパジャマが、今日はいつもより心地よい着心地に感じる。
「まさか高校で勇太くんに再会できるなんて、思ってもみませんでした」
4年前のあの日。
季節外れの寒さのせいで教室でおもらしをしてしまい、あわや女の子の尊厳を失う瀬戸際にあった私を助けてくれた男の子。
いきなり水を被ってみんなの注意を引くと同時に、周囲を水浸しにすることで、私のおもらしを文字通り水に流してくれたウォーター・シンデレラプリンス(水被りの王子様)。
他にも運動音痴だった私が逆上がりをできるようになるまで、
「あー、惜しい! でもかなり上まで足が上がってたよ。もうちょいだな」
根気強く手助けしてくれたり。
私がぽっちゃり体型と名前をもじって「姫牛」なんて、クラスの男子にからかわれるたびに、
「お前らそういうのやめろよな。だっせーの。気にしちゃだめだよ姫乃ちゃん」
と笑顔で守ってくれたりした。
おかげでからかわれることもほとんどなくなって、学校に行くのが楽しくなった。
「勇太くん――」
名前を呼ぶだけで心が温かくなってくる、それは私の初恋の男の子だった。
夏休みが明けたら絶対にお礼を言おうと思っていたのに、2学期が始まると勇太くんは転校していなくなってしまっていた。
とってもショックだった。
連絡先も聞いておらず、もう会えないと思っていた勇太くんとの突然の再会に、私はあの頃の恋心が鮮明に蘇ってくるのを感じていた。
「勇太くん、すごくカッコよくなっていました。背も伸びて、大人っぽくなって。でもちょっとした仕草は昔のままで、すごく懐かしかったです」
でも――だけど。
「小鳥遊小春ちゃん……家が隣の幼馴染だって言ってたっけ」
勇太くんの隣にとても可愛い女の子がいたことを、私は意識せざるを得なかった。
背は低いのに胸やお尻は大きくて、なのに腰や足はすらっと細い小春ちゃんは、同性の私からから見てもまさに理想の女の子だ。
しかも明るくてにこやかで親しみやすく、可愛らしいことこの上ない。
さぞやモテることだろう。
そんなキュートな小春ちゃんが、勇太の幼馴染みとしてすぐ隣にいることに、私は言いようのない危機感を覚えていた。
「女の子らしくて可愛かったなぁ……胸とか多分Fくらいあったよね?」
小春ちゃんの制服の胸元を押し上げていた暴力的なサイズ感を、私は思い出しながら、自分の胸に手を当てた。
背中でないとかろうじてわかる、申し訳程度の小さな膨らみがそこにはあった。
「……はぁ」
比べるまでもなく圧倒的な敗北を感じてしまい、私は大きなため息をついたのだった。
「でも、だけど。負けないもん。もう会えないと思っていた勇太くんとこうして再会できたんだから。小春ちゃんは可愛いし、いい子だし、スタイルも負けているけど。それとこれとは話が別だから――」




