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手柄

 切ない話


 細かい考証はしていません。


「ガイシャの身元は、加藤某38歳。国立大学を卒業後大手企業に務めるも1ヶ月で返職。以降半グレ集団を束ねて偽造装を作っていた疑いで5課が追っていた男です。」

都内のホテルの一室で、優男風の若い刑事佐々木が、いかにもといった厳しい顔の定年を来月に控えた刑事、田中に説明をする。

田中は運ばれていく加藤の死体に手を合わせると呟いた。

「5課の連中も気の毒にな。あと少しで記織のトップ2人を捕まえられたのに、片方は仏さん、もう片方は俺たち1課の領分に入っちまったんだ。」

この件の犯人はわかりきっていた。加藤と手を組んでグループを束ねていたもう1人のリーダー。高橋だ。

衝動的な犯行だったと見え、ホテルの防犯カメラには、凶器である出前の丼を持って慌てて出てくる高橋の姿が映っていた。出削のアルバイトの証言からも、死亡推定時期の直前、この部屋で加藤と高橋が天丼を受け取った事がわかっている。

「出前は新札で支払われており、その時高橋が札束の入った封筒から偽札を出したことは、アルバイトの証言でわかっています。尻尾を出すとすれば、その金を使うときでしょう。」

「おいおい、そんな間抜けな真似するかね。追われてるのがわかっていて、偽礼を使うなんて、捕まえてくれって言ってるようなもんだぜ。」

「まあ、普通ならそうなんですけどね..。高橋は今金を待っていない筈なので、どうしたって偽札を使わざるを得ないんですよ。」

「そーかい。」

正直なところ、ほとんどの情報は5課の捜査で明るみになっているため、やることは少ない。あとは、高橋がどこで偽礼を使うかだ。

「周辺の防犯カメラやなんかの洗い出し..なんて、俺が指示出すまでもなく始まってるんだろうな...。」

田中は雨の降る窓を眺めながら、ため息をついた。


=========


ジャラジャラジャラジャラ

コインの音と各ゲーム機が掻き鳴らす音楽たち。

コインゲームの台に向かいながら、田中は佐々木の方を見やった。

「ゲームとかやるタイプだったのか。」

リズムゲームの前で激しく手を働かす佐々木。2年程度の付き合いになるが、人の意外な一面というのは案外いつになっても出てくるものだ。ゲームセンターのお菓子自動販売機で買ったベビースターを煩張りつつ、ゲームに経費を溶かしていく。

「張り込み中だって、理解してんだろうな。ゲームに夢中でホシの動きに気付かないなんてことないだろうな。」

そんなことを考えながら、目の前に座っている男一高橋を観察する。

このゲームセンターは、そもそも佐々木の行き付けで、高橋を見つけたのも佐々木だった。まあ、定年の直前に手柄がたてられるのは、ラッキーだったか。

手持ちのコインが底をつきたらしく、高橋が立ち上がり、自動販売機に向かった。コーヒーを持って田中の横を通り過ぎる。

ガタン!田中の傘に高橋が瞬いた。

「ごめんなさい!」

とっさに頭を下げた高橋は、田中の顔色を伺うと、そそくさと店外に出ていく。

チラリ、佐々木と目配せをして後をつければ、路地。手筈通り挟み狭みうちだ。

「少し、良いですか。」

田中が声をかけると、ギョッとして高橋が振り返る。

「なん、でしょうか。」

大通りに出ようと後ずさりしながら無理に笑顔を作る高橋の背後に、先回りした佐々木が立つ。

トン

佐々木にぶつかった高橋は、可哀想なほどに狼狽えている。

「高橋さんですね。」

佐々木は胸ポケットから黒い手帳を取り出すと、二コリとしながら問う。

「私達が何故あなたにお声をかけたか、おわかりですね?」

しばらくの無言

「...わかります。」

随分と聞き分けがいい。

「高橋某。通貨偽造、並びに加藤某の殺害容疑でご同行いただけますか。」


==========


「今日飲みに行きましょうよ!」

取り調べも終わり、デスクでひと意ついたところで、佐々木が田中に駆け寄ってきた。

「どうしたんだよ。お前そういう付き合い嫌いだろ。」

「まあ、嫌いですけど..。なんというか、田中さんと犯人逮捕できて良かったなぁ、みたいな?田中さん来月、定年ですし。」

「そうか。そうか。」

田中は、定年前に手柄を立てられてラッキーだった、などと自分本位なことを考えたことが恥ずかしくなった。

「奢ってやるよ。」

クシャリと下手くそな笑みを浮かべ、デスクの上に置かれた片付けかけのダンボールをそっと閉じた。


 閲覧ありがとうございます。


 完結です。

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