始業式
「今年の入学者は25人と多く……」
試験前に会話した老人が話す。どうやら校長だったようだ。
「長いねぇ……」
「そうだね……」
入学者が多い、と言うだけでもう10分以上話している。
「校長先生、ありがとうございました。続きましては、教室への案内をさせていただきます」
進行役の先生が校長先生の言葉を遮り進行する。
「では入学者の皆様、こちらへどうぞ」
受付の女性が促す。どうやらクラスの先生のようだ。
数分歩き、1つの部屋へと入る。
「こちらが、これから皆様が勉強する教室です」
半円状に並んだ机は中心を見るように配置されている。円の外側ほど高く配置されており、後ろの席でも問題なく中心が見えるだろう。
「席は決まっておりません。お好きな場所へ座ってください」
教室から出た先生がこちらを向く。
「次は寮へご案内致します」
と言い、先導する。
「こちらが住居区、皆様が寝食等を行う場所です」
大きな建物の前で先生が振り返る。
入口には歳を取った男女と、白月よりも少し年上っぽい同じ服を着た男女。
「入寮希望者かい? ババはリナ、こっちのジジイはミナト」
笑顔で老婆ーーリナが言い、老人ーーミナトが会釈する。
「後ろの人は紹介しないのかな……」
紅陽が白月に尋ねる。
「紅陽、アレは奴隷。名前なんて無いよ」
白月が紅陽にだけ聞こえる声で答える。
スリア魔術学校では奴隷制度が存在する。通常のように人権が完全に無くなる訳ではないが、ほぼ同じだ。あくまで『故意に殺したり傷付けてはいけない』というだけであり、発言権のない奴隷に故意でなかった事の説明は出来ないので実質無いようなものだ。
「それじゃ、部屋に案内するよ。2人組になっておくれ」
言われ、紅陽と白月は近付く。他も近くの者と組む人が殆どだ。
「まぁ1人でクリアした人は少ないだろうしねぇ」
紅陽が言う。確かにあの泡は防御が上手くないと防げない。しかし試験自体は攻撃が出来ないと突破出来ない。
なので初めから片方が防いでもう片方がリングを回収出来る攻防2人組の方がクリアしやすいのだ。
もちろん、突破者は25人なので1人は余ってしまう。
「余った1人は一旦1人部屋になるけど、1人でも欠ければそこに入ってもらうからねぇ」
リナが言う。それだけ死が日常なのだろう。
「それじゃ、案内するよ」
先生は寮の入口に残り、リナが先導する。
「この部屋は誰が入るんだい?」
リナが問う。どうやら好きな部屋に入れるようだ。
「はいはーーい!!」
「ボクたちが入るよ!!」
受付で声をかけてきた水色の髪をした2人組が答える
「入口に近い方が朝ゆっくり出来そうだからね!!」
2人は顔を見合わせて笑いながら部屋に入っていく。
その後も特に揉めるようなことも無く部屋が決まっていった。紅陽と白月は1番奥の部屋だ。
「次は何だっけ?」
「荷物を置いてさっき言ってた教室に集合、だよ」
少ない手荷物を置き、着替えをする。
「ねぇ、本当にこの服で行くの?」
若干引いたような声で紅陽が尋ねる。
「モチロン。これが僕達の正装だからね」
胸を張って白月が答える。
紅陽は白月と比べてボリュームの少ないブラウスと上着にショートパンツという、まるでフリル多めの軍服の様な姿、白月はフリルやレースにリボンをふんだんに使った、まるでお姫様の様なドレス姿だ。
「ちょっと派手過ぎないかなぁ……?」
「さっ。ウダウダ言ってないでマント着けて行こ」
紅陽の意見は完全に無視し、学校の生徒である事を示すマントを着ける。色は自由で紅陽が白、白月が黒だ。着ている服も同じように紅陽は白、白月は黒を基調としている。
しぶしぶといった様子で紅陽もマントを着け、教室へ出発する。
「どこ座る? やっぱ前の方?」
楽しそうに紅陽が声をかける。白月は席を見渡し、
「目立たなそうだし、真ん中くらいかな」
と言い、紅陽の斜め後ろを歩く。
「全員揃いましたね、では授業を始めます」
まずは自己紹介らしい。と言っても2人とも周りには興味が無いので殆ど聞き流していた。
ただ、よく声をかけてくる2人組はシオとリオと言うらしい。声も高く女の子みたいな見た目だが男だそうだ。謎のフードはリーシャと言い、声の高さからしてもおそらく女性であろう事が判明した。
「次に特別制度について説明します」
ここは特別クラスと呼ばれる実戦経験のあるクラスだ。他のクラスのように実技演習は必要無い。
「このクラスの生徒には特別ギルドカードを支給します。これはギルドで依頼を受けるのに必要となりますので無くさないように」
特別クラスには学費を払い学校に入るような通常の方法で入学出来る程の財力のある人は居ない。払えない学費は自力で稼ぐしかないが、実績も信用も何も無い子供に仕事をさせるギルドは無い。そんな生きられない子供が来るのがこの特別クラスだ。特別ギルドカードがあれば大量の手数料が取られるが学校が保証者となりギルドで仕事をする事が出来るのだ。
「君達の実力は既に証明されているので実技授業に出る必要はありません。が、一般クラスと共に実技授業に出れば授業支援者として1,000ポイント与えます」
学校内では金銭を持つのは過去に色々あったらしくポイント制だ。とは言え学生証に記録されている為、学校内で何をするにも学生証を専用の機械にかざすだけで良い、というシステムになったのだ。
日用品や雑貨等と言った娯楽品から食堂での食事と言った買い物から学生寮の家賃や学費まで全て支払いはポイントだ。
「ポイントが無くなると1月の間学生証が学校に取り上げられ、その間に滞納分と1,000ポイントを用意出来なかった場合は奴隷として働いて頂きますのでご注意を」
買い物は購入時、家賃は毎日、学費は毎月1日にポイントを支払う。家賃と学費は勝手に支払われる。
「また、君達の実力は証明されてますが、礼儀作法は証明されていません。座学には出席するように。座学は毎週陽の日に行われます」
暦は世界で統一されており基本的に24の時間で1日、6の日で1週、5の週で1月、12の月で1年と数える。
日は月の日、火の日、水の日、風の日、土の日、陽の日の属性と同じ6つだ。
「もし出席出来ず、特別に個別授業を頼む場合5,000ポイントが必要となります。ご注意を」
そこまで説明した所で鐘の音が聞こえてくる。
「授業は1時間毎に10分の休憩を挟み、皆様は陽の日に9時から3時間受けて頂きます。合図は先程の鐘の音です。授業中は教室は施錠致しますので途中入席や退席は出来ません。お気を付けください」
どうやら陽の日は昼まで学校に居ないといけないようだ。
「以上で説明を終了します。詳しいポイント数はこちらの書類を見て下さい。今日はこれで終わりですが、来週からは授業を始めますので朝の9時にこの教室に集合してください」
先生はそう言いつつ机にプリントを置き教室を出ていく。どうやらこれで初日の授業は終わりのようだ。




