入学試験
「それでは試験内容を発表する!!」
喉元に魔術陣をつけた男性が言う。
「あれは?」
「拡声魔術だね」
紅陽がきき、白月が答える。
「あの陣カッコイイね。僕もやろっかな」
楽しそうに白月が言う。彼女達の魔術だと、魔術陣なんて魔術発動に必要無い。
「今回の受験者数は2,572人だった! 受付で渡したリングを100個集めて受付へ持っていけば合格だ!!」
男性が叫ぶ。
「拡声魔術使ってるのに叫ぶの何でなの?」
「さぁ? 気分じゃない?」
実際はある程度声量がないといけないのだが2人は気付かない。
「それにしても……どうしよっか……」
少し焦った白月が紅陽の服の裾をつまみながら尋ねる。
「あー……リング貰えると思って……改造しちゃったもんねぇ……準備期間だと思って……」
白月はリングに魔術付与を行い、身体強化能力をつけていた。装着するだけで身体能力が上がる。
「まぁ……取られなきゃいいか……」
2人は力技な結論に至った。
「それでは試験を開始する!! 始め!!」
長い説明が終わり、試験が始まる。
「長い説明だったねぇ……白月は聞いてた?」
「とりあえずリング100個受付に持っていったら良いんじゃないの?」
と、微妙に理解してない2人。
もう戦闘は始まっているのだが、2人は弱いとでも思われているのか狙われない。
「とは言え、いつまでもじっとはしてられないよねぇ」
「そうだねぇ。じゃあ100個集めますか」
のんびり座って話しながら白月が魔術陣を周囲に展開する。
「おっいきなり作ったんだ!」
紅陽が言いながら、陣に気付いて近寄ってきた受験者を峰打ちで薙ぎ倒しリングを回収する。
「陣ってなかなか難しい……ちょっと待ってね」
苦戦しながら白月は陣を描いていく。
「そんなに強くないし大丈夫! ごゆっくり〜」
さすがに陣が目立ち、襲ってくる人数が増えるが、紅陽は余裕の顔で捌いていく。
「よし! 出来た!」
少しして白月が楽しそうに言う。その頃にはリングも150個をこえていた。
「早く早くー」
周りを素手で捌きながら紅陽が言う。
「『深海に住まいし麗しき姫君よ、汝の嘆き、悲しみ、諦め、諦観の泡よ、』」
白月の周りが仄かに光り、胸の高さで開いていた本が浮き、勝手にページが捲られていく。
「『我が前に顕現し、内なる絶望のままに蹂躙せよ』」
白月が上げた手を開く。
すると魔術陣の真ん中から泡が湧き出る。
「あっ……紅陽……」
ちょっと気まずそうな白月。
「どうしたの?」
嫌な予感がしながら紅陽が尋ねる。
「ちょっと……強過ぎたかも……」
「あー……防ぐね……」
言い、紅陽は炎を撒く。
白月の「ちょっと強過ぎ」は無抵抗だと殺してしまう威力という事だ。まさか実戦試験で無抵抗は無いとは思うが、殺すのは目立ってしまう。
「……白月、どれだけ出すの?」
炎を出し続ける紅陽が尋ねる。
「もういい? リング貯まった?」
と言い、手を叩くと泡を生み出し続けていた陣が消える。泡は触れたものが溶ける魔術だったのか、地面は草1つ生えておらず、倒れている人は衣服は溶けて本人も火傷でも負ったかのように真っ赤になっていた。
「これは……大惨事……」
「まぁ火傷は私のせいなんだけど……」
2人は顔を見合わせながら呟いた。自力で防いでいたのは数人程度だったらしい。
「とりあえずリングも揃ったし受付行こっか」
諦めて全てを見ていない事にした紅陽がリングを持って歩き出す。
「うん」
白月は小さく答え、後ろを着いていく。