列車内にて
その後、何事も無く駅に着き魔導列車に乗る。
「さ、ひと息ついたし本読もっか」
紅陽が言い、白月が頷く。
正面に座っていたのを隣に移動し、2人で本を覗き込む。
「おぉー分かりやすい」
白月が呟く。子供向けなだけあって分かりやすい。
「えーっと……『魔術を使うには魔力の流れを読み』……」
紅陽が読み上げる。
「えっ? 『詠唱した後に技名を言う』……?」
白月が不思議そうに続ける。
「詠唱……技名……?」
と紅陽が言い、顔を見合わせる。
2人は何となく魔力を感じて何となく魔術をイメージして発動していた。
「えっ……世間ではそんな面倒な事するの……?」
「と、とりあえず詠唱と技名覚えて使うようにしないと」
既にやる気を失いつつある白月に紅陽が声を掛ける。
「えーっと……炎の弾を前方に発射する魔術……これは私向けだね」
紅陽が魔術一覧のページを見ながら言う。
「詠唱が『豪炎来たれ、我が元に集いて仇なす』……長いな……」
紅陽が途中で断念する。
「白月は何使う? 水? 風?」
「うーん……風の方が選択肢多いかな……」
面倒そうに答える。紅陽は炎を、白月は水と風が得意で、使うだけなら全属性使える。
「風か……じゃあ『フライ』とか? 飛ぶヤツらしいけど……」
「試験じゃ使わないでしょ……それより、隠れるやつとか攻撃とか無いの?」
「それだと意外と水の方ができる事多そうだよ」
「そうなの?」
不思議そうに聞いてくる白月に本を見ながら紅陽が答える。
「うん。風は飛んだり察知したりの補助ばっかりだね」
「じゃあ水にする」
白月が即答する。どちらでも良いのだろう。
「水で攻撃系なら『アクアレーザー』とか……」
ページをめくりながら紅陽が答える。
「全方位にレーザー出したら良いかな……」
真剣な顔で白月が呟く。
「いやそれはダメでしょ。普通1本だし、多くても3本が限界らしいよ」
すぐに紅陽がツッコミをいれる。
「えぇ……そんなに長い詠唱なのに1本……効率悪過ぎない?」
呆れた様子の白月。
それもそのはず、2人であれば一言で3本は一気に出せる。
「仕方ないよ……これが普通って書いてあるし……」
「試験でこの本持ち込んでも良いかな? 僕覚えられる気がしない」
白月が早々に諦める。
「えーっと……大丈夫だよ。1つまでなら持ち込み可能って書いてある」
パンフレットを見ながら紅陽が答える。
「1つならこのリュックで良いんじゃない?」
白月が横に置いているリュックを抱えて答える。
それぞれリュックとウエストポーチを持っており、両方に魔術が込められていて見た目以上に物が入る。これを持ち込めるなら実質持ち込み放題となる。
「いや、流石に反則でしょ……それがOKなら絶対馬車ごと持ち込もうとする人とか出てくるし……」
呆れながら紅陽が答える。
「それもそっか。じゃあ僕はこの本を持ち込むとして、紅陽は何を持ち込むの?」
結局詠唱を覚える事を諦めたらしい白月が問う。
「私? 私はもちろんこれだよ?」
その問いに対してさも当然であるかのように紅陽が所々刃こぼれしていたり錆びたりした短剣を見せる。
それはかつて、2人で必死にお金を貯めて初めて買った物だった。
「2人の思い出の品だからね。試験だからって一瞬でも手放すのは嫌なの」
と、お互いの持ち物を確認した所で列車が止まる。どうやら試験会場に到着したようだ。