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卒業

「結局あの後どうしたんだっけ?」

「えーっと確か……僕が残ってコウが大人を呼びに行ったんだっけ」

イノシシの魔獣を倒した事件から数年経ち、2人は明日15歳となる。

この孤児院では15歳を迎えた子供は自立し、孤児院を出なければいけない。

「で、僕達は」

「魔術学校に通うんだよね!」

スリア魔術学校。ここ、魔術都市アトストネリア内にある魔術学校の中の1つだ。

魔術都市内には複数の魔術学校があるが、孤児である子供達が通えるのはスリアのみだ。

「今年の卒業者は僕とコウ、アオの3人だっけ?」

「どんな名前になるのか楽しみだね!」

この孤児院では子供達は髪の色で呼ばれる。白髪のハク、青髪のアオ、赤髪のコウ。偶然赤い髪の子供が多かった為、アカではなくコウと呼ばれていた。

そして孤児院を出る時に先生に名前をつけて貰えるのだ。

だいたいは色の名前に1文字足した名前となる。

2人はワクワクしつつ眠りについた。


「ハク、朝だよ。ハク、ハク」

バシバシと叩きながらハクを呼ぶ。

「うー……ん……んぅ……すぅ……」

「起きんかい!!」

叩かれながら、2度寝しだしたハクを布団ごとひっくり返して起こす。

「むぅ……もっとそっと起こして……」

不満げに顔を上げたハクが、目を擦りながら言う。

「もー、ハクが起きないからでしょー!」

不貞腐れたコウの言い分に、

「さっ顔洗ってこよ。今日はパーティー楽しもだね」

ハクは無視した。

「そうだねぇー楽しみ!」

コウも特に気にした様子もなく話しはじめる。今日は午後から卒業パーティーだ。


卒業パーティーの時間になり、3人は孤児院の扉を開ける。

パーティーの主役は遅れて出てくるのが習わしだ。

「卒業おめでとー!!」

子供達の大きな声と、それに負けないくらい大きな爆発音がする。と、同時に様々な色の光の粒が舞う。

「凄い……みんな、いつの間に?」

コウが驚いたように問う。

光の粒を出すのは難しくない。この世界の人間は全員魔力を持ってるし、それを放出するだけでいい。魔術を使うよりも簡単だ。

「貴女達が魔術でイノシシを狩ってきた事があったでしょ? あれ以来、皆で練習したのよ」

この孤児院にいる3人の先生の内の1人、睡蓮先生が説明する。

「ここはもう大丈夫。貴女達は貴女達の夢を叶えるのよ」

と。優しく微笑みながら。


時は過ぎ、夕方。そろそろお開きの時間だ。

「さぁさぁ、そろそろ出発準備をしますよ」

パンパンと手を叩いて院長先生が言う。

「まずは3人に名前をつけましょうね」

優しく微笑み、アオの手を取る。

「貴女は自分の意思を言うのが苦手ね。自分の事も嫌いみたいね。でも、相手の事を考えて先回りして行動したり、皆が気付かないような事に気付いて行動する事も出来るわ。そんな貴女には、これから自分の価値を知り他者と協力し成長して行けるようにという願いを込め『蒼比』の名を授けます」

蒼い花を渡しながら、

「これからは名に恥じぬように、周りと仲良く成長していってくださいね」

と、優しく声を掛ける。

「次は貴女よ。コウ」

そしてコウの前に立つ。

「はいはーい!」

元気に手を上げて返事しつつ、1歩近付く。

「貴女はいつも元気いっぱいね。でも、しっかり考えたり、細かい事には全く気付かないわ。それでも、貴女は困ってる相手に躊躇う事無く手を差し伸べられる強さもあるわ。そんな貴女には、これからも皆の手を引き、太陽の様に先を照らす存在となる様にという願いを込めて『紅陽』の名を授けます」

優しく紅い花を渡しながら、

「これからも名に恥じぬように、太陽の様な笑顔で相手を導いてあげてくださいね」

と、声を掛けて微笑み掛ける。

「次は貴女ですよ。ハク」

と言い、ハクの前に立つ

「は、はい……」

と、胸の前で指を絡めながら1歩後退る。

「貴女は蒼比と同じく、自分の意思を伝えるのが苦手ね。でも貴女は周りをしっかり見て、相手が本当に欲しているヒントが分かるみたいね。でも自分に自信がなくて相手に伝えられないのは残念だわ。これからは少しずつでも頑張って、相手の背中をそっと押してあげられるように、という願いを込めて『白月』の名を授けるわ」

と言い、白い花を手渡す。

「これからはちゃんと相手と関わって、少しずつでいいから逃げずに仲良くするのよ」

と言い、立ち上がる。

「さぁ新しい門出のプレゼントを渡しましょうか」

と言った院長の声に応えるように2人の先生が袋を持って出てくる。

「これから料理人として住み込みで働く蒼比にはコック服を、魔導学校に入学する紅陽と白月にはマントをプレゼントするわ」

と、シンプルなデザインのマントを受け取る。

紅陽は手が見える程度の丈の、白月は足首までの丈のマントを着る。

「紅陽にはこれも」

と言い、ウエストポーチを渡す。

「あとは、片道分の旅費です。どうぞ」

と、小さな袋をそれぞれに渡す。

「では、行ってらっしゃい、みんな」

優しく微笑みながら、院長先生が続ける。

「貴女達は今日、孤児院を出ます。それでもここは貴女達の家なのです。辛くなった時やどうしようも無くなった時にはここに帰って来なさい。暮らす事は出来ずとも、数日泊まる程度なら問題ありません。無理せず、生き生きと元気に生きなさい」

優しく、力強く言う。

「行ってきます」

3人は言い、駅に向かう。目指すは魔導列車の駅だ。

「あ、ちょっと待ちなさい紅陽、白月」

睡蓮が引き止める。

「貴女達は魔術の使い方が普通じゃないわ。コレを読んで普通を学びなさい」

と、子供向けの魔術教本『たのしいまほう』だ。

「えー……なんで……」

嫌そうな白月。

「別にいいんじゃない?」

そっぽを向く紅陽。

「駄目です。学校では目立たずにいないと、貴族に目を付けられてしまいますよ」

と、睡蓮がたしなめる。

「仕方ない紅陽……とりあえず入学までは大人しくしよう……」

「入学試験も面倒だし、仕方ないかー」

面倒そうに2人は承諾する。入学試験は毎年同じで、希望者全員での戦闘だ。最後まで立っていた数十人が入学となる。

目指すは魔導学校スリアだ。

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