5話 感涙
あまりにも壮絶。
俺の過去なんてそんなのを聞かされた後には話すのも恥ずかしい程にくだらない・・・。
そんな2人の過去を聞かされた。
「死ぬ事も出来ず、ずっと辱めを受け続けておりました」
「う、うん、だよね・・・」
「このご恩は終生を掛けてお返しさせて下さい」
終生って重いな・・・っても、エルフの寿命を考えたら人間の一生なんて一瞬か。
そんな重たい話をしていたはずなのに・・・俺の腹は空気を読めないようで、盛大に大きな音を立てた。
「気が利かず申し訳ございません」
「いやいやいや」
空気を読めなくてこっちこそごめん・・・。
「重ねて申し訳ないんだけど・・・」
「はい」
「2人を買うのに全財産使ったから無一文なんだよね」
「この辺りにダンジョンはございますか?」
「え、うん」
「それではそちらで狩りをして参りますのでお待ち下さい」
「え、うん、え?」
「それではアリス。ご主人様は貴女に任せましたよ」
「うん、あ、はい!」
小一時間程アリスと本当に・・・これ以上無いくらいの身のない会話をした。
痛い所は無いか。疲れてはいないか。しんどくはないか。体調は。お腹は空いていないか。
女性に慣れていない。しかも、こんなに美しい女性にどう接していいか分からない。
それはもう必死に話した。身のない会話を・・・。
そうこうしているとアリシアが戻ってきた。
「お待たせ致しました」
ダンジョンに行くと言っていたが、服も髪も一切乱れた様子もなく本当にダンジョンに行ったのか疑わしい。
そして、手にはバスケットが握られており、その中にはパンパンに何かが詰まっているのが見える。
「ご主人様のお好みが分かりませんでしたので色々買って参りました」
「え、あ、うん、ありがとう」
1時間も経っていないはず。こことダンジョンを往復するだけでも結構な時間が掛かるはず。
その上でダンジョンで狩りをして?換金して?買い物をして?戻ってきた?
この短時間で?
「こちらでお召し上がりになられますか?」
「え、あ、うん、そうしよっかな」
「それでは準備致します」
そう言うと呪文を唱えた。
ゴゴゴゴゴ───。
土魔法だろうけど・・・あまりにも繊細。
地面が盛り上がりみるみるウチに椅子の形になり、テーブルの形になり。屋外にも関わらずそこだけは貴族のお屋敷のリビングと言われても違和感が無い程の出来のテーブルと椅子が眼の前に現れた。
「即席ですので簡素で申し訳ございませんが」
いやいやいやいや、日本に居た時ですらこんな豪華な椅子に座った事は無い。
座るよう促され椅子に腰掛けると眼の前に色とりどりの料理達。俺が最後の晩餐にと夢見た景色よりも遥かに豪華な・・・。
「ううっ・・・うっ・・・ズズズッ・・・ううっ・・・」
しばらく涙が止まらなかった。
嗚咽も止まらない、恥も外聞も無く泣き崩れた。
2人は俺が泣き止むのをジッと待っていてくれた。
「ふぅ・・・ごめん」
「いえ」
「よぉし、食べよっか」
「はい」
「いや、2人も一緒にね」
「宜しいので?」
「いや、1人でこんな食えないし。皆で食べた方が美味しいでしょ」
「「はいっ」」
3人でどんどん食べ進める。
ただ、俺はこの世界に来てゴミ漁りをして生き延びたような人間だから当然胃も小さいので一瞬で満腹になってしまった。
2人は200年振りの食事らしく泣きながら食べている。
200年振りの食事・・・最早、どんな感情なのかどんな味がするのか見当も付かない。
気が付くとテーブルの上にあった大量の料理は綺麗さっぱり無くなっていた。
そのほとんどが2人のお腹に収まっているのが信じられない程に2人共スタイルが良い。
食後しばらく3人共にボーっとして過ごした。どのくらいの時間が経ったかは分からないが3人共に心の整理をするのに必要な時間だった。
「ご主人様」
「え、うん」
「これからのご予定は?」
「うん、どうしよっか・・・」
最期に美味しい物を食べて終わりにしよう。そう思っていたから、これからの予定なんてものは無い。
「ご提案なのですが」
「うん?」
アリシアとアリスの2人が冒険者として復帰してお金を稼ぎ生活の基盤を安定させる。
つまりは家を買い毎日温かい食事に温かい風呂に温かい布団。そして、安全をもたらしてくれる。と・・・。
「その後、ご主人様のレベリングを行いたいのですが」
「俺の?レベリング?」
キャリーしてくれるって事?パワーレベリングってヤツ?
「安全面を考えた場合。私達2人が護衛に付いて居たとしましてもご主人様ご自身のレベルが高いに越した事はございませんので」
「うん・・・じゃあ、お願いしよっかな」
そうして冒頭に戻る訳だ。
アリスがモンスターを抑えつけ、アリシアが周囲を警戒する。俺は無抵抗のモンスターに鈍器を振り下ろす。そんな簡単なお仕事を繰り返した。