4話 紹介
パチパチパチ───。
「良いものを見せて頂きました」
後ろを振り返ると、さっきの奴隷商がそこに居た。
「な、なんだよ・・・」
もしかして、このエルフを取り返しに来た?
もしかして、俺のスキルを知っていた?そして、回復させられるか観察していたのか?
「先程頂きましたお代ですが」
足りないってか?そうか、そうですか。
「頂き過ぎでしたので、こちらをサービスさせて頂きます」
「は?」
すると、先程の屈強な男達では無く色っぽい女性が奴隷商の後ろから出てきた。
「失礼致します」
そう言うと気を失っているエルフ達に服を着せていく。何故かメイド服を。
「お困りかと思いまして」
確かに、全裸のまま街中を歩かせる訳にもいかない。
「多少、足は出ますが・・・良いものを見せて頂いたお礼という事で」
足が・・・あぁ、あの金では足りなかったって事か。
「この後はどうなされるおつもりで?」
「この後・・・」
「あれ程の上玉。お売りになられれば一生遊んで暮らせる程になるやもしれません」
分からない。どうすれば良いのか俺には分からない。
どうするのが正解なんだ?
「一頻り楽しまれた後に売られても遅くはございませんからね」
奴隷商はクヒヒヒと下卑た笑いを見せた。
「それでは我々はこれで失礼させて頂きます」
「まぁ、なんていうか・・・助かった」
「それはようございました。またお会い出来る日を楽しみにしております」
そう言うと振り返る事もなく去って行った。
「さて・・・どうしたもんか・・・」
「う、ううっ・・・」
「気が付いたか?」
最初に治療した方のエルフだろうか?先に1人が目を覚ました。
「ハッ・・・さっきの・・・あぁっ、アリス!アリス!良かった!ううっ・・・」
まだ目を覚まさないエルフを抱きしめ嗚咽を漏らし、しばらく泣き続けた。
もう1人のエルフも目を覚まし泣き続け。俺はそれを見守る事しか出来なかった。
「貴方が私達を助けて下さった方ですね」
「え、いや、あ、うん。そう」
唐突に話しかけられ吃ってしまう。
「アリス。ご主人様と呼びなさい」
「すみません。ご主人様」
ご主人様?あぁ、そうか俺がご主人様なのか。
奴隷として買った・・・いや、買った気すら無いが・・・まぁ、買った時には腐った肉塊だった。
それが今では目にする事さえ畏れ多い程に美しい2人のエルフへと変貌してしまった為にその事が結びつかないでいた。
「ご挨拶させて頂いて宜しいでしょうか?」
「え、あ、うん」
「私はアリシアと申します。こちらは妹のアリス」
「アリスです。よろしくお願い致します」
「えっと、俺は・・・」
自己紹介の後、お互いに今に至る事の顛末を話し合った。
2人は姉妹で共にエルフの里で育ったが外の世界への憧れから旅に出て冒険者になったそうだ。
膨大な魔力を有するエルフなので、その魔力を活かした戦闘スタイルで順調に冒険者ランクを上げ名前を売っていったそうだ。
今思えばその事が良くなかったのかもしれない。
簡単にランクを追い抜かれた事への嫉妬、妬み嫉み・・・周りの冒険者からは反感を買い。その美貌から貴族に言い寄られたりと。人との関係性には苦労しか無かったそうだ。
そうして、貴族が高ランクの冒険者に依頼を出したそうだ。
この2人の捕縛依頼を。
ダンジョンで狩りをしていた所、その依頼を受けた冒険者パーティーに声を掛けられたらしい。
情報交換と称してダラダラと続く雑談。
業を煮やしその場を離れようとすると睡眠薬を浴びせ掛けられ。更には状態異常のありとあらゆるデバフスキルを掛けられたそうだ。
ただ、そこは膨大な魔力を有し高い精神力を持つエルフ。
意識が混濁しかけるもギリギリの所で耐えたそうだ。
そして、冒険者ランクは向こうの方が上だが実力はこの2人の方が遥かに上だったらしく。意識の混濁しかけた2人に対してですら捕縛は容易では無くダンジョンの外まで逃げる事に成功した。
ただし、ダンジョンの外は貴族により封鎖されており。2人の攻撃により痛手を負った冒険者パーティーに加え貴族の私兵に囲まれてしまったそうだ。
それでも尚、抵抗する2人に対して自分の物にならぬのならば。と、酸を2人に浴びせ掛けたそうだ。
酸により目が潰れた2人は手加減が出来なくなり貴族にも手を掛けてしまい。その事を罪に問われ犯罪奴隷となったそうだ。
その時の冒険者や私兵、買収されたであろう裁判官やギルド職員。そして、元凶である貴族に報復したいかと尋ねると。
「もう生きていないのでどうでも良いです」
その時に大半は殺したそうだが・・・それ以上に、その事件が起こったのは200年程前の事だから寿命で生きていないとの事だった。
200年間、飲まず食わずでも周囲の魔力を自然と吸収し死ぬ事は無いそうだ。良くも悪くも・・・。