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28話 水割

突然、実家の玄関が現れ帰れるかもしれないという思いが溢れ。それ以外考えられなくなった。

そして、その希望がただの願望でしか無かったと現実を叩きつけられ。俺は膝から崩れ落ちた。


まぁ、それも後から聞いた話で。膝から崩れ落ちたらしい。

それも、しばらくは何を言っても揺すっても反応せずにいきなり糸が切れたかのように崩れ落ち声を上げて泣き続けたらしい。


俺が覚えているのは家の玄関が現れて、ドアを開けた向こうにはセーフエリアがあった。そこまでしか覚えていない。


気が付くと金の稲穂亭のベッドの上に寝かされていた。


「どうされますか?」

「どうって?」

「依頼を受けた訳ですが。ユーダリルダンジョンに向かわれますか?」

「約束しちゃったから行かない訳にはいかないよね」

「また気を失われるかもしれませんよ?」


そうか。

でも、あれは気持ちの落差があまりにも酷かったからそうなった訳で・・・。


この20年、辛い事しか無かった。でも、耐えるだけ、感情を殺すだけ、希望を持たず、余計な事は考えない。そんな20年だった。

それが2人と出会って辛い事なんて1つも無い生活が始まった。

これまでには無かった経験や美味しい物に楽しい事にと毎日が楽しい日々だった。

その上で更に希望を与えられどん底に落とされた。その絶望の落差に茫然自失となってしまった。


でも、あのドアの向こうに両親は待っていないと知ったから・・・知っていればきっと耐えられる・・・。


「多分、大丈夫じゃないかな?」


こうやって気を失った時の状況を教えて貰ったり、思い出していく内に落ち着いてきてると思う。


「で、聞きたい事があるんだけど」

「はい」


そう。

まだまだ聞きたい事はたくさんある。


「ダンジョンで気を失ったのにどうやってここまで?」

「アン様が扉を開いて下さいまして」

「うん」

「私が背負わせて頂いてお連れしました」

「そうなんだ、ありがと」


まだある。


「テーブルとか椅子は?」

「アン様にマジックバッグをお借りして持ち込みましたので隣の部屋に置いてあります」


マジックバッグなんてあるのか。


「じゃあ、後でアイテムボックスに入れないとだね」

「お願いします」


さて、本題だ。


「それでさ」

「はい」

「なんで俺裸なの?」


そう。

起きたら裸だった。パンツも穿いてない。マッパでベッドに寝かされてた。


「ダンジョン中は湯浴みも出来てませんでしたので清めさせて頂きました」

「あ、そうか、なるほどね。うん・・・」


うん。

臭かったか・・・。


アイテムボックスから下着を取り出して布団の中で穿く。


「砂糖の納品も期限は設けていないそうですので」

「あ、うん」

「しばらくはゆっくり過ごして頂こうかと思っております」


その方が良いかもしれない。

ここ最近はずっと動き回っていて身の回りの変化について落ち着いてゆっくり考える暇も無かった。


「うん、そうさせて貰おうかな」


アリシアが部屋を出ていったので布団から出て服を着る。


やっぱり見られたよな?全部・・・。

どう考えても全身くまなく綺麗になっている。


心なしか耳の中までスッキリしている様な気さえする。



そんなこんなで、しばらくしてから隣の部屋でダンジョンに持ち込んでいたテーブル等をアイテムボックスに収納し、元の部屋に戻ってベッドの上でゴロゴロして過ごした。


こんな時、娯楽の少ないこの世界が疎ましい。こんな事なら家具工房で将棋盤と駒を売って貰えば良かった。

1人でやって楽しいとは思えないけど・・・。


買ってない理由はまさにそれで。

アリシアもアリスも将棋に興味がない。

そして、親方に聞く限り。アスガードで将棋を指す人は全員盤も駒も持っているらしくて自分で買う必要性を感じなかったのだ。


後悔後に立たずってヤツかもしれない。


ゴロゴロしながらする事も無く。結構な時間寝ていた?気を失っていた?みたいだから全く眠くもない。

手持ち無沙汰にアイテムボックスからクッキーを取り出し、1枚2枚と食べていく。

バターはたっぷり入っているが砂糖の代わりに蜂蜜を使っている為にそこまでしつこい甘みではない。

素朴な味だからこそ手が止まらない。


とはいえ、流石に喉が乾いてきたのでアリシアかアリスのどちらかが居るだろうから隣の部屋に呼びに行こうとベッドから立ち上がると同時に部屋のドアがノックされた。


「はい」

「失礼致します」

「どうかした?」

「そろそろ喉が乾く頃かと思いまして」


いつも思うけど何で分かるんだ?

何故か常に先回りされる。


「うん」

「市場で買って参りました」

「ありがと」


リンゴジュースやオレンジジュース等の100%っぽいフルーツジュースがいくつか並べられた。

一口飲んでみると濃くて美味しい。でも、ちょっと酸味も強くてクドい気がしないでもない。


「失礼します」

「え?」


アリシアが呪文を唱えるとコップの中に少量の水を入れた。


「どうぞ」

「え?うん」


すると酸味も和らぎクドく感じた味もアッサリと飲みやすく変わっていた。



濃すぎても良くないのか。

クッキーも甘すぎなくて手が止まらなかったしバランスって大事なんだなぁ。と、感心した。


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