27話 玄関
突如現れた謎のメイドさんに連れられて謎の洋館へとやってきた。
そこで会った謎の人物から良く分からない提案を受けたが・・・。
「僕が買える様になる程度。納品して貰えれば良いんだけど」
「えっと、それってアリシア・・・えっと、ウチのメイドが作ったヤツでも良かったりは?」
「美味しければそれでも構わないよ」
そう言うのであれば。と、アイテムボックスからアリシアの作ったクッキーを取り出す。
「これは、まぁ、砂糖を使ってないヤツですけど。良かったら・・・」
「お?良いのかい?それも気になってたんだよねぇ」
丁度そのタイミングで謎のメイドさんが淹れた紅茶が配膳された。
「いただきます」
「どうぞ」
「ふんふん、あー、なるほどなるほど、これも中々、うん、悪くないね」
「どうですか?」
どうですかも何も全部声に出てるんだけど・・・。
「うん、そうだね。中々良いよ。悪くない」
うん。漏れてた声と同じ感想だった。
「これは何度か食べてたよね。他には無いの?」
え?何で知ってるんだ・・・?
「あぁ、ごめんごめん。一応ね?ここのダンジョンマスター的な事を今はやらせて貰ってて」
ダンジョンマスター!
「ダンジョン内で起こった事は全て知覚出来るんだよね」
「え、えっと・・・」
それってもしかして・・・ダンジョン内でトイレをしている時とかも全て見られてるって事なのか・・・?
「心配しなくていいよ。知覚出来るといっても全体像はぼんやりとしていて意識しないとどうなっているか全然分からない程度だからね」
「そ、そうなんですね」
どうしても気になる事がある。
「ダンンジョンマスターって何なんですか?」
「何なんだろう?アン、ダンジョンマスターって何なの?」
「何なのでしょう?仕事でしょうか?それとも暇潰しなのかもしれませんね」
「って感じらしいよ?」
らしいよって・・・。
「ダンジョンって何の為にあるんですか?」
「さぁ?」
さ、さぁ・・・?
「アンは知ってる?」
「存じ上げません」
知らないらしい。
「えっと、それじゃあ・・・イメージの話にはなるんですけど」
「うん」
「ユーダリルダンジョンの最深部って80階じゃないですか」
「違うよ?」
「それでですね・・・え?あれ?違う?」
「ここが最深部だね。一応」
「だったら階層で言うと何階になるんですか・・・?」
「100だね」
「え、でも、80階って行き止まりだったじゃないですか」
あ、もしかして・・・どこかに隠し扉とか抜け穴があるとか。もしくは何か鍵的な物が必要で何かをするとどうにかなって・・・って、ふわっとしすぎだな。
「あれ以上進めないように封鎖してるだけだよ」
「え、あ、なるほど・・・」
「それで引き受けてくれるかな?」
「えっと・・・」
そんな事を言われても俺には決めきれない・・・。なので後ろを振り返るとアリシアが無言で頷いた。
「えっと・・・やらせて頂きます」
「ホントかい?」
「はい」
「それじゃあ、これをプレゼントしようかな」
「あれ?さっき貸出って言ってませんでしたっけ?」
「あ・・・だったら貸出で」
ミスった・・・。
「まぁ、どっちでも良いんだけど」
どっちでも良いんかーい。
「って事で、プレゼントするから定期的にお願いね」
「砂糖を納品ですか?」
「うん。あ、その後ろの娘が作ってくれたのを直接持って来てくれても構わないよ」
どうするべきだろうか。アリシアの顔を見るとまたしても無言で頷いた。
「アリシアの作ったクッキーを持って来ます」
「他には?パンケーキとかパウンドケーキとか他には作れないの?」
「材料と設備さえあれば可能です」
「材料と設備かぁ。もしかして宿暮らし?」
「はい」
「アン」
「畏まりました」
何も言ってないのに通じるのか。
「え、何が・・・」
「それじゃあ、アン。後はよろしく」
「畏まりました」
まだ聞きたい事は山のようにあったが、これ以上の滞在は許されず館の外へと出されてしまった。
「使い方を説明致します」
「はい」
「まず腕輪を嵌め。行きたい階層をしっかりと想像して下さい」
「はい」
「そうすると先程の様に扉が現れます」
一歩前に出て腕輪を嵌め。80階層をイメージする。
しっかりと間違いが無い様にセーフエリアの椅子やテーブルも明確に想像する。
すると目の前に扉が現れた。
ただ、先程は洋風な大きな扉が現れたのに対して今回は見慣れた・・・いや、もう忘れかけていた家の玄関が現れた。
帰れる。日本に、家に、両親の元に、帰る事が出来る。
そう思うと居ても立っても居られず玄関のドアを急いで開けた。
ただ、その先に見えた景色は先程頭の中に描いた通りの80階層のセーフエリアだった。




