26話 腕輪
食料が減ってきていて、帰りの事を考えるとそろそろ引き上げた方が良い気がするが。
「何度もこの階層まで来るのも面倒なので限界まで詰め込みましょう」
との事で・・・まだまだ帰る気は無いようだった。
砂糖を入れるスペースを空ける為に結構な量が貯まっているコピの実をダンジョンに捨てる・・・。
「はぁ~・・・」
もったいない。こんな下層のドロップ品なんだから買い取りも高そうな気がするし。全部、自分で集めた物だから捨てるのは本当に忍びない。
「コーヒーはお嫌いですか?」
「普通かな」
ん?
ビーチチェアに寝転び一息付いていると見慣れないメイド服が視界の端に入った。
「え?」
「初めまして。アンと申します」
「え?あ、はい。初めまして?」
誰?アリシアでもアリスでもなく・・・謎のメイドが現れた。
「先程、お捨てになられたコピの実ですが頂いても宜しいでしょうか?」
「え、それは構わないですけど・・・」
「矢継ぎ早に申し訳ありませんが私の主人が貴方を館に招待したいと申しておりまして」
「主人・・・?館・・・?」
「はい」
「お連れのエルフ2人もご一緒にいらして構いません」
「え、あ、はい」
この人は誰だ?どこから現れた?敵?どうすれば良い?
答えの出ない問いが頭の中を駆け巡る。
「ご主人様お下がり下さい」
アリシアとアリスがセーフエリアに飛び込んできて俺と謎のメイドさんの間に入った。
「敵対する意志はございません」
「ご用件は?」
「主人の館に貴方がたを招待するよう仰せつかりました」
いきなりこんな下層に現れて招待したいとか意味が分からなすぎる。絶対に断るべきだ。
「分かりました。お邪魔させて頂きます」
あれ?行くの?罠とかじゃないの?
「全力で戦っても余裕で負けそうだから罠とかじゃないと思いますよ~」
「え?」
そんなに強いの?アリシアとアリスが全力でやって?
「それに害意があれば私達2人が来るのを待つ必要もありませんし」
「それもそうか・・・」
「納得頂けましたか?」
「は、はい・・・」
「では、こちらへ」
メイドさんがセーフエリアから80階層側の通路に出て、それに着いて行くと。
「!?」
壁に突然扉が現れた。
「私に続いて下さい」
メイドさんが扉を開き中へと入っていった。
「行きましょう」
「う、うん・・・」
それに続いて俺達も扉の中へ入っていく。
扉をくぐった先には雄大な大自然。森が広がっていて遠くには湖も見える。
「こちらへ」
驚いている暇もなくメイドさんはスタスタと歩いていく。
「ビフロストの森にちょっと似てるかも」
「あ~、そうかもですね~」
謎のメイドさんは真っ直ぐ森に向かって歩いていき。森に入ったと思った瞬間にいきなり目の前に大きな館が現れた。
メイドさんは足を止める事なく館に向かう。
玄関というか、扉の前に辿り着いたが見上げる程に大きな扉で遠近感がおかしくなりそうだ。
そんな大きな扉もメイドさんは軽々と開けて俺達3人の入館を促す。
「お入り下さい」
「お、お邪魔します・・・」
コンコンコン───。
「お客様をお連れ致しました」
「入って貰って」
ガチャ───。
応接室のような場所に通され、奥に座っている人がご主人様なのだろう。
「やぁ、初めまして」
「は、初めまして」
「立ち話もなんだから座って」
奥の机から出て、部屋の中央にあるテーブルを挟みソファにお互い腰掛ける。
アリシアとアリスは俺の後ろに立っている。
「コーヒーは好きじゃないみたいだから。紅茶でも淹れて貰おうかな」
「畏まりました」
謎のメイドさんがテキパキと動き2人分の紅茶を淹れてくれている。
「あの・・・それで、俺達は何でここに・・・?」
「ちょっとお願い事があってね」
「お願い事・・・」
「砂糖集めてたよね?」
「そうですね。はい」
「それを冒険者ギルドか商業ギルドかスイート・エモーションに納品して欲しいんだけどどうかな?」
「納品ですか?」
「うん。スイート・エモーションのファンでね」
「あー、はい」
「今のも悪くは無いんだよ。素朴な感じで。でも、やっぱり砂糖をふんだんに使ったお菓子が食べたくてね」
「どのくらい納品すれば良いんですか?」
「まぁ、多いに越した事は無いね」
後ろを振り返るのが怖い。
きっとアリシアもアリスも納得しないだろう。
「そこでね」
「はい」
「毎回、毎回。80階まで往復するのも大変だよね?」
「それはそうですね」
「引き受けて貰えるんであればコレを貸し出そうかと思うんだけど」
と、どこからか腕輪を取り出した。
「それは?」
「さっきアンがダンジョンの中で扉を出したよね?」
「はい」
「あれ」
ダンジョン内に限り、どこでも好きな階層にワープ出来る扉を出す事が出来る腕輪らしい。
そんなトンデモアイテムを何故か俺達に貸してくれるらしいけど・・・。




