25話 目安
トナカイ料理に舌鼓を打ち、幸福な満腹感に浸りながらビーチチェアで横になっていると。
「カリブーは今のご主人様に丁度良い相手かと思いますがどうなさいますか?」
「どう。とは?」
「しばらくこの階層に滞在されますか?それとも進まれますか?」
これはもう・・・しばらくカリブーを狩れと言っているのと同義だ。
「もうちょっと狩りたいかな」
「畏まりました」
回数を重ねる毎に簡単に安定して倒せるようになっていく。
カリブーの攻撃パターンも行動パターンも覚え、そのどれに対しても対処出来るようになった。
元々、失敗したのも寝起きだったからアリシアに教わった対策を忘れていたからだ。
その上で、思っていたよりも大きくてビックリした。そのビックリした状態で思っていたよりも突進が速かった。
頭が動いていない状態で想定外な事が立て続けに起こったから焦ってしまっただけだ。
アリシアにそんな言い訳をしようものなら即座にお説教が飛んでくるだろう・・・。
「そろそろ先に進みましょうか」
「うん」
俺が心の中でカリブーは完璧に攻略した。と、思ってからしばらく経ってようやくアリシアからゴーサインが出た。
その後も何階かスルーしたり、ちょっとだけ狩ったりしながら進んだ。
「今って何階くらい?」
「53階です」
「そんな来たのか」
流石に上層・中層・下層と3つに分けるとするならば下層には入ってるだろうと思う。
ここに来るまでにダンジョンの中で5泊している。
余裕を持って進める階数の目安が1日に10階程と言われている。
6日で53階。途中ケルンやカリブーでガッツリ狩りをした事を考えればかなりのハイペースだと思う。
アリシアとアリス水魔法で飲水を持ち込む必要が無い事。アリスの探索でルート効率や索敵の効率も良い事。
この時点で無理せずに1日に20階は進めそうな気がする。
そして、俺のアイテムボックスがあるから食料にも困らないし、ポーターも必要としない。
推奨される1日に10階というのは戦闘に参加出来無いポーターの行軍速度を目安に考えて設定されているのかもしれない。
だとしたら俺達はそこまで速い訳でも無いか。
「ところで」
「はい」
「このダンジョンって何階まであるか分かってたりは?」
「しないですね」
「そっか」
「80階まで確認されているとの噂もありますが。未確定情報です」
「80・・・」
80で最下層じゃないとしたらまだ半分も来ていない可能性もある。
「踏破を目指すような冒険者は居ないって事だよね?」
「そうですね」
生活の為ならば2階層と3階層に現れるボアファングだけを狩っていても十分金になる。
ボアファングとラッシュブルは人気だから狩り場の取り合いもあって面倒臭さはあっても安全にそこそこ金になる。
効率を求めるならば俺達はスルーしたが15階から18階辺りに出現するゾンビやスケルトン等のアンデット系モンスターはドロップが魔石なので重さや嵩に対しての買い取り額も高くてコスパが良い。
要するに、上層で狩りをするだけで生活に困る様な事は一切無い。
ゲームと違って死ねば終わりどころの話では無く。攻撃を受ければ痛い。盾や防具越しであっても痛いものは痛い。
わざわざ痛い思いをして命を危険に晒して大金を得るか楽してそこそこの金を稼ぐか。リアルに考えれば大半の人間が後者を選ぶと思う。
そんなこんなで遂に辿り着きました80階層。
ここに現れるモンスターは1種のみ。79階層も1種のみでルアクという猫型のモンスターでドロップ品はコピの実という名前だが匂い的にコーヒー豆だった。
80階層のモンスターは・・・いや、モンスターと言っていいのかすら分からないが・・・植物型モンスターになるんだろうか?オーギーという名前のモンスターで見た目はサトウキビ。そして、一本道の通路の両サイドに綺麗に並んで生えている。
当然の事ながら襲ってこなければ動いたりもしない。ただただ刈り取るのみ。狩りなのか刈りなのか・・・。
ドロップ品は砂糖。
アリシアさんもアリスさんも大喜びで刈り入れをしまくっている。
ちなみに、ユーダリルダンジョンの最下層のようで一本道の通路を進むと最奥で壁にぶち当たり、それ以上は何も無かった。
「お願いします」
「はーい」
アリシアからカバンいっぱいに入った砂糖を受け取りアイテムボックスに入れる。
「お願いします~」
「はーい」
アリスからも砂糖を受け取りアイテムボックスに。
ここ2日程、80階層のセーフエリアに拠点を置き狩り続けている。
俺は訓練がてら79階のルアクを狩り、アリシアとアリスは80階で砂糖集めをしている。
休憩しようと拠点に戻るとテーブルの上には大量の砂糖が積み上げられていて。
それを収納しているとアリシアとアリスが交互に砂糖を持って来ては収納をしている。
流石にそろそろアイテムボックスも限界だし、食料的にも戻らないとじゃないかと思うんだけど2人が一向に切り上げる気配がない。




