24話 馴鹿
ケルンの肉集めもそこそこに・・・いや、ウソを吐いた。アイテムボックスがパンパンになるまでケルンの肉集めをやらされた。
その上で・・・。
「そんなに好きなんだ?」
「ケルンの肉ですか?」
「うん」
「ラッシュブルの肉の方が好きですね」
うん、そうね。
「脂身は美味しいのですが・・・」
「うん?」
「肉としての旨味が薄いのでラッシュブルの方が好きですね」
「なるほど」
霜降りよりも赤身の方が好きっていう人も一定数居るよね。
特に通っぽい人の方がそう言ってるイメージがある。
まぁ、好みじゃなくても肉だから集めざるを得ないのだろう。肉食エルフの本能として。
ケルンの乱獲も終わり次の階層へ進んだ。ようやく。
「しばらくはスルーしていきましょう」
あれ?やっぱり好きじゃないと言いつつ霜降りも好きなんだ。
「でも、ケルンは練習相手として良かったと思います」
「え、あ、うん、そうだね」
あれ?肉集めじゃなくて。俺の特訓メインだった?
確かに、表皮が岩で出来ていて硬いから剣で戦うのであれば関節部等の隙間を丁寧に狙う必要があった。
通常は鈍器で表皮を破壊してから、割れた部分を攻撃して倒すそうだ。
そんな訳で、剣に振り回される事もなくなり。狙った所を正確にトレース出来るようになった。
「明日からはこの階層で狩りをしましょう」
ケルンの居た階層からかなり進み。階段を下りるなりアリシアが言い放った。
「うん、この階層には何が居るの?」
「カリブーというモンスターが居ます」
「どんなヤツ?」
「美味しいです」
あ、うん、肉なのね。
「トナカイ型のモンスターで大きな角で攻撃をしてきます」
「トナカイ・・・」
え、あれ?美味しいの?
「注意点としましては」
「うん」
「受け止めた場合。即座に追撃がきますので」
「うん」
「先制攻撃を行うか、受けずに避けてから反撃を行う方が堅実かと思われます」
「分かった」
明日からはトナカイ狩り・・・。
サンタさんがプレゼント配れなくなっちゃうよ・・・とかは思わない。
北欧の方とかでは特にご馳走として食べられていた気がする。
でも、美味しそうなイメージは全くない。
翌日、起床してから寝ぼけ眼のまま朝の身支度を整えていく。
少しずつ頭が覚醒していくに従って今日の予定を思い出していく。
「トナカイか・・・」
「お嫌でしたか?」
「え?」
「何やらトナカイに思い入れがおありの様でしたので」
「いや、別にないよ。ただ、食べる習慣が無かったから美味しいのかな?って」
「でしたら、今日のお昼はカリブー料理に致しましょう」
という訳で、カリブーなるトナカイと対面すると・・・思ってたよりもデカい。
まぁ、トナカイの実物を見た事も無ければ、コイツ自体はトナカイ型のモンスターなんだからサイズは何でもありなんだけど・・・何となく絵本の中のトナカイを想像していたから大きさに面食らった。
そして、目が合うとこちらに向かって突進して来たが鈍重なケルンとは比べ物にならない速度だった。
当然、ラッシュブルやボアファングのような上層のモンスターなんて比べ物にならない程に速い。
大きさに面食らい、速度にもビックリして対応が遅れてしまった。
角による突進。それを盾でなんとか受け止める。
横にいなして剣で反撃を!と、思ったが・・・受け止めた瞬間に首だけを縦に振りかぶり連撃を・・・というタイミングで。
ガシッ───。
「受け止めず避けるよう申し上げましたのに・・・」
「あ・・・」
と、2発目はアリシアがカリブーの角を素手で掴んで防いでくれた。
「ごめん・・・」
「謝罪は結構です。その前にトドメを」
「う、うん」
やらかしたー。
昨日、カリブーの対策を聞いていたはずなのに完全に忘れていた。
「もう1度説明させて頂きます」
「ごめん、忘れてただけだから大丈夫」
気を取り直して・・・いや、気を引き締め直してカリブー狩りに向かう。
落ち着いて対処するとそこまで強い相手では無かった。
スピードはあっても直線的だし、避けてしまえばすれ違いざまに攻撃をするのも難しくなかった。
「少し早いですが昼食にしましょう」
何度か休憩を挟んだ後。待望のカリブーの肉を使ったお昼ご飯となった。
セーフエリアに戻るとテーブルを埋め尽くす肉料理の数々。
数時間でよくこれだけ作れるという事に感心してしまう。
それも、スイッチを押すだけで火が出たり温めてくれたり水が出たり便利な文明の利器も無く。レンガを組んで作った竈で調理しなければならないのにも関わらず。
まずはステーキ。
塩胡椒が掛かっていて、更にベリーのソースも掛かっている。
肉に果物のソースというのは食べるまで合うイメージは無かったけど食べてみると意外と良かった。
まぁ・・・意外と良かった。という範囲で、焼き肉のタレとかの方が全然美味しいとは思う。
続いてローストビーフ。
これはグレイビーソースって言うのかな?肉汁を使ったソースが掛かっている。
そして、揚げ物。
ミンチにして丸めて小麦粉をまぶして揚げてあるっぽい。
どれも美味しかった。
牛とかよりはクセがあるけど、思っていたような獣臭さやクセは特に無くアッサリした赤身肉という感じだった。




