20話 白色
翌日、約束通り3人でスイート・エモーションを訪れ・・・昨日、アリシアを散々怒らせてしまったお詫びに好きなだけ買って良いと提案したところ・・・。
「申し訳ございません。購入制限は無いのですが流石に全て買い占めされるのはちょっと・・・」
アリシアがショーケースにある分全部お願いします。なんて事を宣った。
「ルール上、問題無いのであればお売り頂きたいのですが」
「他のお客様のご迷惑にもなりますので・・・」
「ルール上、問題無いのであれば。それはそちら側の都合なのでは?」
「アリシア、アリシア、アリシア」
「はい?」
「その辺にしとこうか・・・」
「??」
「全種類3つ・・・いや、5つずつ貰えませんか?」
「承りましたっ」
クッキーやドーナッツにパウンドケーキ等。結構な種類があったので量としてはそこそこだ。
そして、金額的にはそこそこでは済まず・・・目が飛び出るかと思ったが異世界のお菓子の相場なんて分からないし仕方ないのかもしれない。
「アリシア。アレだよアレ」
「はい?」
「美味しかったらまた買いに来よう。美味しくない可能性もあるからね」
「そうですね。その可能性を失念しておりました」
まぁ、そんな可能性が無いのは分かっている。
確実に匂いで分かる。大量のバターが練り込まれしっとりと焼き上がったクッキーが不味い訳が無い。
なので近い将来。再びこの店を訪れる事になるだろう。
近い将来なんて言い回しをしたが・・・ぶっちゃけ明日とか明後日くらいだと思われる・・・。
今日も家具工房に行って将棋を指したい気持ちを抑えてアリシアに従って行動する。
「一旦、宿に戻りましょう」
「うん」
という訳で、とんぼ返りをして金の稲穂亭に戻ってきた。
「すみません。また厨房をお借りしても?」
「すまんが、昼過ぎまでは無理だ」
「でしたら、他に厨房を借りられる場所をご存知ありませんか?」
「この時間は厳しいんじゃねぇかな?」
「そうですか・・・」
「何、作りてぇんだ?」
「お菓子を少々」
「ふむ・・・だったらオーブンやらも要るな」
「家具屋さんは~?」
「あー、言えば貸してくれるかもね」
という事で、家具工房に向かった。
「キッチン貸して下さい」
「はぁ?」
その反応は正しい。
家具工房に来た客の第一声がキッチンを貸せなんだから正しい反応だ。
「ついでに俺等の昼飯作ってくれんなら良いぞ」
「お?どうする?」
「そんな事で宜しいのでしたらお願いします」
「いや、待て」
「はい?」
「勝てる戦法教えてくれ。お前にも勝てるようなヤツな」
「まぁ、良いですけど・・・」
昨日アリスから預かった荷物と共に大量の蜂蜜をアリシアに渡し。俺は今日も今日とて将棋盤を睨む事となった。
「ほれ、必殺の戦法を教えやがれっ」
「それが人にものを教わる態度ですか?」
「ぐっ・・・いや、でもアレだっ。対価なんだから良いだろっ」
「まぁ、そうですね・・・」
「で、何を教えてくれんだ?」
「レグスペを教えましょう」
「ほう」
「正式には白色レグホーンスペシャルと言います」
「強そうだな・・・」
ハッキリ言って強い。
守りが堅くて安心感がある上に攻撃力まで高いというちょっと反則気味な戦法だ。
簡単に手順と狙いを説明していく。
「お前そりゃあ・・・ズルくねぇか?」
「どう考えても強いでしょ?」
「これはヤバいな・・・」
とはいえ・・・無敵な戦法なんてものは存在しない。
どんな戦法も一長一短があり、どんなに優れた囲いや戦法に対しても対策があり正しく対応すればその優位性は失われる。
「よし、んじゃいっちょ指してみっか」
「いいですよ」
という訳でレグスペの弱点を突いていく。
「ん?あれ?おい、ちょっと待て」
「はい?」
「そんな事されたらレグスペに出来ないんだが?」
「そうですよ?」
「おまっ」
「欠点を教えてあげてるんですよ」
「くそう・・・」
レグスペは特殊な名前だけど簡単に言うと角交換をして四間飛車にして穴熊にする戦法だ。
あれこれ色々しないといけないからこそ熊さんが穴に入る前に攻撃してしまえばどうという事はない。
そこからは昨日に引き続き普通に将棋を指し。気付けば弟子たちに囲まれていて、弟子たちは盤面を観ながら周りであーだこーだ言い合っている。
そうして何局か指すと・・・弟子たちの姿が消えていた。
「あれ?お弟子さん達居なくなりましたね」
「気付いてなかったんか?あいつらなら飯食いに行ったぞ」
「親方は良いんですか?」
「勝つまでは要らん」
「勝てると思ってるんですか?」
「ほざいてろっ」
そして、俺も親方も昼食を食べるタイミングを逃し。アリシアに怒られてから冷めた昼食を2人で食べるハメになった。




