18話 棋神
少し足を伸ばし家具工房の前まで行くと馬車の荷台に次から次へと何かを積み込んでいる。
それを見学していると俺に気付いた親方が近寄ってきた。
「どうかしたか?」
「あ、いえ、何してるのかなー?って」
「商業ギルドが商品を受け取りに来てんだ」
話している間も弟子達がどんどん荷台に積み込んでいっている。
「商品って何なんですか?」
「あー?オセロとショーギだよ」
「え?」
「ふふん。知らねぇだろ?アスガード発祥のゲームなんだが。これがまた面白いのなんのってな」
「将棋あるんですか?」
「お?知ってんのか?」
「そこそこ?」
「ほう、だったらこっちに来い。相手してやる」
「望むところだっ」
強いか弱いかで言えば弱い方だと思う。中学生の時に、とある将棋アプリでそこそこ頑張ってみたが段まではいけなかった。その程度の強さだ。そして、20年のブランクもある。
「よし、そこに座れ」
「はい」
「振るぞ」
「はい」
って、振り駒までするのか・・・。
というか、ネット将棋しかした事無いから実物の将棋盤も駒も初めて触る。
「お前が先手だな」
「はい」
とりあえず角道開けるか。
「ふふん」
「え?パ・・・え?間違えてません?」
「あぁ?俺が間違える訳無ぇだろ」
「す、すいません・・・」
こちらが角道を開けているのに4四歩を突いて来た。
俗に言う4四歩パックマンだ。
無視して駒組みを進めるのが良いとされているけど・・・誘いに乗っても先手番の方が優勢だったはず。
よし、無視しよう。
「ふん、日和ったか」
ほう、そんな事を言うならこっちにも考えがある。
奇襲戦法には奇襲戦法。そちらがパックマンならこっちは鬼殺しだっ!
「な、なんだそりゃ・・・ズルくねぇか?」
「何もズルくないですよ」
「くそぅ・・・もう1回だもう1回」
「あれ?何か言う事あるんじゃないんですか?」
「くっ・・・まっ・・・した」
「え?何ですかー?聞こえないなー」
「負けましたっ!もう1回だっ!!」
パックマンなんてマニアックな戦法を使ってくる割に棋力はそこまでではなかった。
まぁ、名前だけは有名な戦法だから・・・って、日本ではそうかもしれないけど、この世界では・・・もしかして、俺と同じで異世界転移か、もしくは転生した日本人が広めたのか?
「あの」
「なんだ?勝ち逃げはさせねぇぞ?」
「この将棋って誰の案で作ったんですか?」
「んー?まぁ、もういいか」
「??」
「ナギトっつーヤツだよ」
ナギト・・・凪斗?渚人?うん、日本人っぽい。
「その人って・・・」
「んー、ある日突然フラっとやって来てな」
「はい」
「ある日、フラっと居なくなった」
「今はもう居ないんですか?」
「居ねぇな」
「そうですか・・・」
突然現れて、突然消えた。日本に帰れたんだろうか?
そう考えると俺も日本に帰れる可能性が・・・。
「その人って、どのくらい居ました?」
「アスガードにか?」
「はい」
「んー、1年も居なかった気がすんなぁ」
そうか・・・俺の場合は20年。
1年間の失踪ならまだしも、20年も失踪してたとしたら・・・そうか、俺はもう死んだ扱いになってるのか。
この20年。元の世界の事を考えなかった日が無い程に元の世界、元の生活の事を考えていた。
家族に会いたい、友達に会いたい、ゲームがしたい、漫画の続きが読みたい、好きだった料理が食べたい、お菓子が食べたい。そんな漠然とした事はずっと思い続けてきたが現実逃避で昔の記憶に縋っていただけだ。
なので、現実逃避した先でのリアルな想像は避けていたのかもしれない。
「ナギトの事が気になんなら。スイート・エモーションにでも行ってみろ」
「なんですか?それ」
「ナギトの作った店で甘味屋だ」
「おー」
手広くやってたみたいだし。知識チートで無双してたっぽいな。
「ご主人様行ってみましょ~」
「え?うん」
「待て!もう1局だ!」
「最後ですよ?」
「おう!」
最後という事で手順は全然覚えていないけど後手番一手損角換わりを披露してみよう。
「ふっ・・・勝ったな」
「なんでですか?」
「お前、後手で1手損してんのに更に1手損してんじゃねぇか。それで2手損だ」
「続けてみれば分かりますよ」
結局は俺の全勝で終わったが。初見の戦法で翻弄したから勝てただけで棋力自体は同じくらいか親方の方が上かもしれない。
まぁ、それでも勝ちは勝ちだっ。
「負けました・・・」
「それじゃあ、俺達はこれで」
「お前っ!」
「はい?」
「また来いよ?」
「指しにですか?」
「だけじゃなくてサービスすっからよ」
「また何か要る物あったらお願いします」
「次はいつ来る?明日か?」
「いや、明日は来ないと思いますよ・・・?」
「くっ・・・明後日か?」
「未定です!そのウチ、また来ますから」
「絶対。絶対だぞっ!?」
「わ、分かりましたよ・・・」
しつこく粘り続ける親方を振り切り家具工房を後にした。
そして、以前ここに来ていた俺以外の転移者が作ったらしい店へと向かった。




